安江 一勢 氏やすえ いっせい
税理士/経営者(3社)/作家(累計4万部)/メンサ会員
1億円の借金、そして夜逃げ。
——14歳で人生を失った少年が、二冊目の本であえて選んだテーマは「信頼」だった。
税理士として3社を経営し、著書累計4万部。世界最大級の高IQグループ・メンサの会員でもある安江一勢氏。だがその出発点は、京都の老舗呉服屋の4代目という恵まれた生まれから一転、14歳での父の失踪と一家離散だった。「お金さえあれば」と一日15時間勉強し、23歳で九州最年少税理士に。お金のプロフェッショナルとして数々の経営者と向き合い続けた男が、最新刊で語るのは、しかしお金の話ではない。PHP研究所編集長・大隅元が、その逆説の核心に迫る。
この対談は、どういう“越境”なのか
「@本が読みたくなる、ラジオ」には、ひとつの決めごとがある。自分が編集していない、他社の著者の本を、現役の編集長が読み解く。 すばる舎から『お金よりも「先に」大切にすべきもの』を上梓した安江一勢氏を、PHP研究所編集長・大隅元が読み解く——利害から自由な読み手だからこそ、著者の本質にまっすぐ切り込める。
今日の一冊——美和子と翔太が出会う『お金よりも「先に」大切にすべきもの』
番組は、ある場面のナレーションから幕を開ける。夜のオフィス。定時を過ぎ、ほとんどの席が空になったフロアで、翔太は一人パソコンの画面を閉じた。取引先との商談がまた白紙に戻った。懸命に数字をそろえ、メリットを説明したのに、返ってきたのは「検討します」という言葉だけ。
美和子がコートを手に通りがかり、翔太の顔を見て足を止める。「また数字の話だけした?」翔太がうなずくと、美和子は静かにバッグから一冊を取り出した。
著者の安江一勢氏は、税理士・作家として3社を経営する実業家だ。14歳のとき、父親の会社倒産によって家族は夜逃げ。「お金さえあれば」と猛勉強した末に、23歳で九州最年少税理士(当時)となった人物である。しかし、お金のプロとして多くの成功者と向き合い続けた安江氏が気づいたのは逆説だった。本当に豊かになった人たちは、お金よりも先に「信頼」を積み上げていた。 収入も人間関係もチャンスも、すべての根っこには信頼という見えない資産があったのだ。
「センスじゃないの、信頼って」美和子がそう言った。「だれでも今日から積み上げられるスキルだって、この人は断言してる」
聴きどころ ①「お金のプロ」が、なぜお金より先に語るのか
ゲストトークは、税理士という仕事の輪郭から始まった。
「税理士はいわゆるビジネスドクターと言われてるんですけど、会社のお医者さんみたいな感じで、経営者さんの会計だったり、税金のサポートをするお仕事」
そう語る安江氏のクライアントは、実は九州の中小企業だけではない。半分近くが県外のインフルエンサーや個人事業主だという。年配の税理士が苦手とするオンライン対応で、全国の若い経営者から選ばれてきた。経費が作れない、銀行評価が上がらない、どんぶり勘定になりがち——そうした相談に答え続けるなかで、安江氏はある結論にたどり着く。「お金の専門家だからこそ、『人生はお金』理論を真正面から否定でき、『人生はお金以外で決まる』ということを伝えられる」。 信頼は目に見えないが複利効果があり、良い人も連れてきてくれる——数字を扱う仕事の中枢で磨かれた実感が、本書の芯になっている。
聴きどころ ②14歳、父の失踪、そして夜逃げ——反転の起点
タイトルの奥に隠された答えを、あつみに問われた安江氏は短く言い切った。
「信頼です」
そのシンプルな一語の重みは、彼の経歴を知ると増す。ソフトテニス部の副キャプテンになった翌日、家に帰ると部屋は暗く、父が1億円もの借金を残して失踪したことを知らされた。その日のうちに、母、妹との夜逃げが決まった。「その日の一日は忘れたことがないですね」。京都の老舗呉服屋の4代目という生まれから一転、生活は根底から覆った。「お金に困る人生はもうごめんだ」と一日15時間、多いときは21時間勉強し、23歳で九州最年少税理士(当時)に合格。だが憧れの仕事に就き、初めて貯金100万円が貯まったとき、湧いてきたのは「虚しさ」だった。お金では埋まらないものがあると気づいたその先に、信頼という資産へのまなざしが研ぎ澄まされていった。
聴きどころ ③あえて第一章に置かれなかった、その言葉
この本には、もうひとつのドラマがある。当初、安江氏はまったく別のテーマ——「気遣い」で10万字もの原稿をすでに書き上げていた。ところが担当編集者から「信頼にしよう」と告げられ、書き直しを迫られる。発売時期は決まっていたため、時間的な余裕はほとんどなかった。「最初は原稿7、8割ぐらい使えるんじゃないか」と思っていたが、結局は全部書き換えることになったという。
そうして生まれた第1章には、あるしかけが施されている。「信頼」という言葉が、本文にはまだ出てこない。 帯にも書かれていない。読み進めるほどに核心へ引き込まれる構成は、担当編集者との2冊目のタッグだからこそ成立した信頼関係の産物でもある。
聴きどころ ④19の習慣に滲む、税理士の癖
本書の終盤には「自然と信頼を積み上げる19の習慣」がまとめられている。もともとは50ほどあった項目を絞り込んだものだ。中でも大隅が食いついたのが、目上の人への連絡のタイミングだった。安江氏はメッセンジャーで質問を送るとき、相手の時間に余裕がありそうなタイミングを選んでいるという。既読がすぐつく時代だからこそ、「自分がちょっと余裕ある時間にやるっていうのは、すごく大事な気遣い」だと語る。
もうひとつは、断り方だ。飲み会を断るとき、安江氏が使うのは「実は肝臓がハードワークが続いてるから、今日休ませてくれと言ってまして」というユーモアある一言。子どもが小さく夜の予定を断らざるを得ない場面が多いなかで、「また誘ってもらいたい」という思いから磨かれてきた言い回しだという。地道な信頼構築の技術は、税理士として数字と向き合ってきた男の、生活に根ざした知恵だった。
聴きどころ ⑤著者になると、何が変わるのか——1作目と2作目のあいだで
出版を夢見るリスナーに向け、安江氏は率直な変化を語った。「1作目はそれこそ本を書くのが夢だったんで、めちゃくちゃ嬉しかった」。だが2作目に取りかかったときの心境は違ったという。「1冊目出した怖さというか、現実を知ってるので、嬉しいより始まるな」。本を売ること、届けることの難しさをすでに知ってしまった分、「どうやって届けようか」という計算が先に立ち、無邪気に喜ぶ余裕がなかったと明かす。
一方でその“怖さ”は、経験に裏打ちされた強さでもある。1冊目を出せば、好意的な反応も、意図しない受け取られ方をする反応も、否応なく返ってくる。その手応えを踏まえ、2冊目は「読者の顔が浮かびながら書ける」ようになったという。
出会いも一変した。顧問契約の依頼は「圧倒的に増えました」。講演や書店イベントの機会も広がった一方で、「言葉に責任が出ちゃった」ことで、日々の言葉遣いやお金の使い方まで、自問自答する機会が増えたと明かす。本を出すことは最大級の信頼行動であり、その分、著者であり続けるプレッシャーもまた生きがいに変わっていく——これから著者を目指す人にとって、覚悟の輪郭を示してくれるエピソードだ。
越境がもたらしたもの
編集を担当していない読み手だからこそ、安江氏の本質を利害から自由に引き出せた。税理士という肩書の奥にある夜逃げの記憶、二冊目に懸けた覚悟、19の習慣に滲む地道な気配り、そして著者になって変わった景色——担当編集なら聞きづらいことも、越境の読み手だからまっすぐ問える。その健全さが、安江一勢という人物の輪郭を立体的に描き出した。
安江 一勢 氏という人物を、これほど掘り下げた55分。放送を聴けば、お金のプロがなぜ「信頼」を選んだのか、その答えが腑に落ちるはずだ。
ゲスト著者プロフィール
安江 一勢 氏(やすえ いっせい)
税理士・経営者・作家。安江一勢税理士事務所代表。株式会社Think Crearly代表取締役。著者累計4万部。1994年、京都生まれ、福岡市在住。京都の老舗呉服屋の4代目として生まれるも、14歳のとき父の会社倒産により一家で夜逃げを経験。「お金に困る人生はもうごめんだ」と一日15時間の猛勉強を重ね、23歳で九州最年少税理士(当時)に合格。平均年齢60代の税理士業界で全国に0.6%しかいない20代税理士となり、26歳で独立開業。現在は3社の会社を経営している。作家としてデビュー作『26歳の自分に受けさせたいお金の講義』(すばる舎)が3万部のベストセラーとなり、著者累計4万部を達成。世界最大級の高IQグループ「メンサ」の会員でもある。双子を含む3児の父として育児にも奮闘中。
『お金よりも「先に」大切にすべきもの どんな未来が訪れても君を一生支える「見えない資産」』(すばる舎/2026年5月20日発売)
お金のプロフェッショナルとして数多くの成功者と向き合ってきた著者が、精神論でも成功談でもなく、実体験と具体例でたどり着いた答え。人生を本当に支える資産は、お金ではなく「信頼」だった。収入、人間関係、チャンス——すべてが好転していく信頼という見えない資産の積み上げ方を書いた一冊。
GUEST'S WORKゲストの活動・関連リンク
ON AIR放送情報
- 放送日時:2026年8月15日(土)23:00〜23:55
- 放送:全国110局のコミュニティFMで放送
- ♪ 私を作った一曲:flumpool「HELP」(安江 一勢 氏 選曲)
ABOUT@本が読みたくなる、ラジオ
「@本が読みたくなる、ラジオ」は、自分が編集していない、他社の著者の本を、現役編集長が読み解くという決めごとを持つ対談ラジオ番組です。担当編集という利害から自由な読み手だからこそ、著者の本質にまっすぐ切り込む。ナビゲーターのあつみゆりかとともに、全国110局のコミュニティFMで放送中。
文責:編集部 Toshi Kinoshita