ON AIR REPORT 放送レポート
EP04 2026年8月1日(土)23:00〜23:55 本レポート

精神科医さわ 先生

塩釜口こころクリニック院長/精神科専門医/精神保健指定医/公認心理師

「また来ます」と言ったきり、戻らなかった患者。
——精神科医が55分で明かす、“また会いたくなる人”の正体。

PHP研究所編集長・大隅元が読み解くのは、すばる舎から『また話したくなる人がやっていること』を上梓した精神科医さわ先生。名古屋市で塩釜口こころクリニックを開業し、これまで延べ5万人以上の診療に携わってきたこの人物が、ある患者との別れをきっかけに問い続けた「また会いたいと思われる人」の正体に、他社の編集長がまっすぐ迫る。

精神科医さわ 先生

この対談は、どういう“越境”なのか

「@本が読みたくなる、ラジオ」の決めごとは、自分が編集していない、他社の著者の本を、現役の編集長が読み解くこと。今回、その役を担うのはPHP研究所編集長・大隅元。相対するのは、すばる舎から『また話したくなる人がやっていること』を送り出した精神科医さわ先生だ。

利害関係のない読み手だからこそ、著者の本質にまっすぐ切り込める。精神科の診察室で培われたコミュニケーションの知恵は、はたして編集者やビジネスパーソンにどこまで届くのか——その越境が、この回の核心になる。

今日の一冊——美和子と翔太が出会う『また話したくなる人がやっていること』

午後のオフィス。商談から戻ってきた翔太は、どこか沈んだ顔をしていた。「どうしたの。顔に書いてある」と声をかける美和子。「営業でクライアントと話しているとき、なんか噛み合わなくて。連絡も取れないんです……」。美和子はデスクの上の一冊を差し出す。「聞く力が足りなかったのかもね。これ、読んでみたら?」

著者の精神科医さわさんは、名古屋市の塩釜口こころクリニックの院長で、延べ5万人以上の診察に携わってきた現役の精神科医だ。この本を書こうとしたきっかけは、一人の患者の言葉だった。「先生、また来ます」——そう言って診察室を出ていったその人は、その後、二度と現れなかった。後日、その方が亡くなったことを知ったさわさんは、問い続ける。どうしたら「また先生と話したい」と思ってもらえたのか。精神科医にとって、「また来てもらうこと」は命綱である。

本書が伝えるのは、会話術やテクニックではない。「また話したい」と思われる人は、話がうまい人ではなく、相手が安心できる場をつくれる人だ。「どんなあなたも受け入れます」という空気を、言葉と態度の両方で示すこと。「話したくないなら、話さなくてもいい」と言えること。解決策より先に、そばで聞いてあげること。これら41のコツが、章をまたいで積み重なっていく。

「……俺、結果を出そうとしすぎて、相手との空気づくりなんて考えてなかったです」翔太がぽつりと言う。美和子はうなずいた。「難しいことは一つもないのがこの本の良いところ。今日からできることばかりだから」

聴きどころ ①なぜ、この本は生まれたのか——「また来ます」と言った患者との別れ

対談は、本書の出発点そのものから始まった。「先生、また来ます」と言い残して姿を消し、二度と戻らなかった患者。その死を知ったさわ先生は、以来ずっと問い続けている。どうすれば「また話したい」と思ってもらえたのか。

精神科医にとって、患者にまた通ってもらうことは、単なる継続診療ではない。それは文字通り命に関わる問題だ。この一冊は、その切実な問いから編まれた。取材でも、この原点のエピソードは繰り返し語られており、41のコツすべての土台になっている。

聴きどころ ②「攻め」ではなく「合気道」——あつみが見抜いた対話の構造

この日、対談に鋭い補助線を引いたのが、ナビゲーター・あつみだった。世に出ているコミュニケーション本の多くは「こう言えばいい」という攻めの話法が中心だが、この一冊は違う——そう前置きしたうえで、あつみはこう評した。

「攻めじゃなくて、合気道みたいだと思ったんですよ。相手の力を、相手が来たものに対して、どう受けて、それに対して返していくか」

攻めの話法が肌に合わなかった人にも、逆に攻めの話法は身につけたけれど「受け手」に回ったときにうまく聞けていないと感じる人にも効く一冊だ、という指摘だ。

さわ先生は、この言葉を受けて破顔した。「褒められすぎてめちゃくちゃ嬉しくて」と前置きしたうえで、本書の核にある考えをこう言い切る。

「相手を変えようとしないことって、最上級の愛だなって私は思っていて」

精神科医になりたての頃は「治さなきゃ」「よくしてあげないと」と必死だった。この確信の土台にあるのが、アルコール依存症治療の経験だ。研修先がたまたまアルコール依存症の専門病院で、当時の副院長から「とにかく上から目線にならないこと」「アルコールのおかげでここまで生きてこられた人だと捉えること」を叩き込まれた。断酒を求めるのは正しい治療だが、押しつければ二度と来なくなる。だからこそ必要なのは「飲んでもいいから、また来てね」と言える関係だった。精神科医としてのキャリアを重ねるなかで気づいた、無理に変えようとしないことの大切さ——「今だから書ける本」だと、さわ先生は静かに振り返る。

あつみは対談の中で、さわ先生の立ち位置についてもうひとつの見立てを添えている。技術以前に、「その人の居場所を作ってあげたい」という母なる優しさが、この人の根底にあるのではないか、と。

さわ先生はこの指摘を否定しなかった。それどころか、その根っこにある世界観を、こんな言葉で明かしている。SNSを開けば、人と人が言い争い、批判し合っている。そんな世の中だからこそ——

「人間って生まれたときは愛と優しさの塊だって、私思っていて」

性善説の人間観。子を育てる母として、その優しさを保ったまま子どもを育てたいと願うのと同じ思いが、患者との向き合い方にも、この一冊にも流れている。テクニックの前に、変えようとしない、否定しない、居場所をつくる——本書に並ぶ具体的な作法の数々も、突き詰めればこの一点に発している。

その象徴が「沈黙」への向き合い方だ。本書には「沈黙は立派なコミュニケーション」と書かれている。さわ先生自身、若手の頃は沈黙を埋めたくて焦っていたが、先輩医師から「沈黙って大事なんだよね」と言われたことをきっかけに、その意味を考えるようになったという。相手がどんな過去や心の傷を抱えていて、いま何を話そうとしているのか——それを慮る時間として、沈黙を捉え直す。90度に座ること、2分間の相槌に愛と優しさを込めること、そして沈黙を急いで埋めないこと。どれも、相手を変えようとせず、ただそこにいる場所をつくるための作法だ。

収録中の精神科医さわ先生と大隅元編集長
スタジオでの収録風景

聴きどころ ③PHP研究所編集長、大隅元が本書に見た“編集の鏡”

読み手としての大隅の反応も、この回の見どころだ。子どもを習い事に送り、迎えを待つ約1時間で本書を一気読みしたという大隅は、こう語る。薄い箇所が一切なく、全部を自分ごととして読めた本だった、と。

編集者という仕事は、著者から何かを「引き出さなきゃいけない」立場でもある。大隅は、本書の「期待させすぎてはいけない」という一節に、自身の仕事を重ねた。著者に頼られると嬉しい反面、期待に応え続けられなければ、いずれこちらが疲弊してしまう。期待させすぎず、依存させすぎず、自立を促す——それは編集者にも精神科医にも共通する距離のとり方だと、大隅は本書から気づかされたという。

さわ先生自身、診療の現場でこの「線引き」を徹底している。ある日15分話を聞いたからといって、次回もそれを期待させてしまうと、かえって不満を生む。だからこそ、枠をあらかじめ決めておく。

「毎回5分ですよ。また話したかったら、また来週来てくれたらいいですよ」

この一貫した枠の提示こそが、長期的に安定した信頼関係をつくるのだと、さわ先生は説く。

もうひとつ、大隅が「使える」と語ったのが、フィードバックの型だ。良い点と課題、そして期待をセットで伝える——さわ先生いわく「ポジティブ・ネガティブ・ポジティブ・フィードバック」。大学時代の部活動で後輩を指導する立場になったときに教わり、以来20年近く忠実に守り続けているという。

聴きどころ ④「当たり前のことを、書いていいのか。」——一流ほど、当然を当然のようにやっている

本を書きたいと考えるすべての人にとって、この対談で最も実利のあるやり取りが、終盤に訪れる。さわ先生自身が明かした、執筆中の迷いだ。

診察室での振る舞いは、自分にとってはあまりに当たり前すぎる。「こんな当たり前のこと書いていいのかな」と、担当編集者に何度も相談したという。無意識にやっていることを言語化できた手応えはある一方、「読者に、こんなの知ってるよ、と言われるんじゃないか」という怖さもあったと率直に語った。

これに大隅が編集者として応じる。

「一流の人って、どんな分野でも一流になれる人って、当たり前のことを当たり前にやってるんですよ。結局そこに尽きるわけで」

テクニックだけを教えても、同じようにはなれない。だからこそビジネス書は、土台となる「当たり前」を書く権利がある——大隅はそう続けた。6割、7割が「当たり前」に見えても全く問題はない。むしろ、一番気をつけなければいけない基本が抜け落ちていないかを確かめられる本こそが、新社会人をはじめ多くの読者にとって価値を持つ。

自分では当然すぎて言語化できずにいたことを、編集者やライターとの対話を通じて引き出してもらう——さわ先生の執筆過程そのものが、この教えを体現していた。「本を書きたいが、何を書けばいいかわからない」という人にとって、示唆に富むやり取りだ。

越境がもたらしたもの

精神科の診察室で磨かれた「また来てもらうための作法」は、90度に座ること、2分間の相槌、沈黙の受け止め方といった一つひとつの技術である以前に、「相手を変えようとしない」という一貫した姿勢に貫かれていた。それは、編集者が著者と向き合う姿勢とも、営業パーソンが顧客と向き合う姿勢とも、驚くほど重なり合う。

すばる舎の一冊を、PHP研究所の編集長が読み解く——この越境がなければ、精神科の現場知が編集の現場知と地続きであることは、これほど明快には言語化されなかったかもしれない。担当編集ではない読み手だからこそ、業種を超えた普遍性をまっすぐに引き出せた55分だった。

収録を終えた出演者一同
収録を終えて(MUSIC BIRDスタジオにて)

ゲスト著者プロフィール

精神科医さわ 先生

塩釜口こころクリニック院長。精神科専門医、精神保健指定医、公認心理師。1984年、三重県生まれ。南山中学校・高等学校女子部を経て、藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合ってきた。発達ユニークな娘2人をシングルで育てる母でもあり、長女の不登校・発達障害の診断をきっかけに、「同じような悩みを持つ親子の支えになりたい」と、2021年に名古屋市で塩釜口こころクリニックを開業。開業直後から予約が殺到し、現在も月に約400人の親子の診療に携わり、これまで延べ5万人以上を診療してきた。

NHK、ABCテレビ、CBCラジオ、中日新聞連載など、メディア出演も多数。YouTube「精神科医さわの幸せの処方箋」は登録者13万人超、SNS総フォロワーは20万人を超える。2026年4月からはCBCラジオで自身の冠番組「精神科医さわのこころ日和」も放送中。

著書には、デビュー作『子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)、『「発達ユニーク」な子が思っていること』(日本実業出版社)、『「幸せそう」にならなくて大丈夫』(光文社)ほか多数。

『また話したくなる人がやっていること』書影

『また話したくなる人がやっていること』(すばる舎/2026年7月7日発売)

「また来てもらうこと」を精神科医としての命綱として捉え直し、相手が安心して話せる場のつくり方を41のコツにまとめた一冊。会話術ではなく、相手を変えようとしない姿勢そのものを軸に据える。

『子どもが本当に思っていること』書影

『子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)

さわ先生のデビュー作。発売から2年半で15刷、累計7万部を超えるベストセラーとなった一冊で、この日の放送でも「一番言ってほしかった経歴」として本人からたびたび言及された。子どもの心の声を通して、親子の関係を見つめ直す一冊。

GUEST'S WORKゲストの著作・活動

ON AIR放送情報

  • 放送日時:2026年8月1日(土)23:00〜23:55
  • 放送:全国約110局のコミュニティFMで放送
  • ♪ 私を作った一曲:風味堂「泣き虫のうた」(精神科医さわ 先生 選曲/大学時代、部活の親友が教えてくれた一曲)

ABOUT@本が読みたくなる、ラジオ

「@本が読みたくなる、ラジオ」は、自分が編集していない、他社の著者の本を、現役編集長が読み解くという決めごとを持つ対談ラジオ番組です。担当編集という利害から自由な読み手だからこそ、著者の本質にまっすぐ切り込む。ナビゲーターのあつみゆりかとともに、全国110局のコミュニティFMで放送中。

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文責:編集部 Toshi Kinoshita