齋田 真司 氏(さいた しんじ)
株式会社キーレイズ 代表取締役/元 株式会社キーエンス トップセールス/『キーエンス 最強の働き方』著者
20秒で黙った新人が、キーエンスで5度の頂点へ。
——「向いていない」を技術で越えた男の、愛される41の型。
キーエンスの採用試験で、20秒の自己PRに言葉が詰まり、一度は不採用になった。人前で話すのが大の苦手だったその新人は、やがて同社で史上初となる3期連続を含む、計5度の全社1位に上り詰める。飛鳥新社編集長・矢島和郎が読み解くのは、その道のりを41の「愛されテク」として書き尽くした齋田 真司 氏。収録スタジオでもなお「緊張している」と打ち明ける誠実さの奥に、才能ではなく技術で頂点を獲った人の、静かな執念が見えてくる。
この対談は、どういう“越境”なのか
「@本が読みたくなる、ラジオ」には、ひとつの決めごとがある。自分が編集していない、他社の著者の本を、現役の編集長が読み解く。
今回、飛鳥新社の矢島和郎が手に取ったのは、PHP研究所から刊行された『キーエンス 最強の働き方』。しかもこの本を編集したのは、本番組のパーソナリティでもあるPHP研究所の大隅 元だ。同じマイクを囲む仲間が手がけた一冊を、他社の編集長が利害から自由に読み解く。越境のなかに、もうひとつの越境が重なる回になった。
今日の一冊——美和子と翔太が出会う『キーエンス 最強の働き方』
夕方の事業企画部。外回りから戻った翔太が、給湯室の美和子の前で肩を落とす。新規のお客様に資料をうまく説明できず、断られてしまったのだという。「準備はしっかりしたはずなんですけど……」。その翔太に、美和子は一冊の本を差し出した。
あの高収益企業キーエンスでトップ営業を勝ち取った著者が、自ら編み出した41の「愛されテク」。それを事前準備、コミュニケーション、時間管理、部下育成、メンタルと、仕事のあらゆる場面に沿ってまとめた一冊だ。ページをめくった美和子が指さしたのは、身だしなみの一項目だった。スーツは少しくたびれたくらいがちょうどいい。その代わり、ワイシャツだけは真っ白に。教科書には載っていない具体的な基準が、びっしりと並んでいる。
「準備した資料の完成度より、相手との距離の縮め方のほうが大事だったんですね」。翔太がつぶやく。がんばって完璧に説明することと、信頼されることは、実は別の技術なのだ。
聴きどころ ①「向いていない」と思っていた新人の、転機
理系出身で、学生時代は遺伝子の実験に明け暮れていた。営業職の選考に落ちたあと、技術職で受け直した最終面接で「一旦営業で入ってくれ」と言われ、そのまま営業として入社した。周りを見渡すと、話が面白く、相手の懐に入るのがうまい先輩や同期ばかり。「これはもう敵わない」と、同期に悩みを打ち明けていた時期もあったという。
転機は入社1年目の秋口に訪れた。担当エリアを持って独り立ちした矢先、大口の引き合いが舞い込む。自分一人では到底まとめられない。そこで営業所のエースの先輩に同行を頼み、お手本を見せてもらった。帰り道に補足を聞き、会社に戻って資料の意味合いまで教わる。さらに、自分が同じ説明をお客様に納得してもらえる形でできるかどうか、練習にまで付き合ってもらった。その商品は、そこから齋田氏の得意商品に変わった。
理系ゆえに、論理的に腹落ちしないと理解できない。だから先輩に「なぜこうなるのか」を確かめ続け、自分の口で説明して判断を仰いだ。その愚直な反復の先に、齋田氏はひとつの確信を手にする。
「後天的に身につくスキルで、人って必ず営業で成果を出せる」
ちなみにキーエンスには個人インセンティブがない。給与は一人当たりの営業利益に連動する仕組みだという。「3期連続1位取った時にですね、ちょっとずつ給料逆に下がって」——そんな意外な裏話にも、スタジオは沸いた。
聴きどころ ②準備とは、相手の隣に座るためにある
本書の第1章は「事前準備」から始まる。その象徴が「アプローチファイル」だ。口頭だけで伝えようとすると、お客様と自分の認識はどうしてもずれる。だから説明の補助になる資料を、あらかじめ束ねておく。話術に頼れない自分のための、認識を一致させる道具だった。
お客様の会社の資料を印刷して持参し、二人の間に置いて、指をさしながら一緒に見る。画面越しより、ぐっと距離が縮まる。齋田氏はそれを、鍋をつつくような感覚だと表現した。顔写真と連絡先を刷ったオリジナルのマグネットを配ったのも、困ったときに真っ先に思い出してもらうため、つまり「第一想起」を取るための工夫だ。話を聞いていたあつみは、保険の営業担当からカレンダーをもらう意味に初めて気づいたと笑った。
あつみが付箋を貼って用意した問いにも、齋田氏は実感で応える。まず一つ使ってもらう「小さな一歩」はなぜ効くのか。大口は投資やトラブルのタイミングで生まれるもので、営業側ではコントロールできない。一方、ちょっとした改善の提案なら、営業の工夫次第で「やってみましょうか」と言ってもらえる。
「大口って狙って取れるものではなかなかないのかなとも思っています」
小さな種を数多くまき、そのいくつかが花開く。派手な一発より、積み重ねを信じる人の言葉だった。
聴きどころ ③編集長が線を引いた、「営業」の定義
発売から1年以上が経ったいまも、本書は売れ続けている。Amazonでの1位を皮切りに、三省堂書店の有楽町店と池袋本店、福岡のジュンク堂書店でも1位を獲得したと、齋田氏は語る。
矢島がまず挙げたのは、この本が「営業の本」に留まっていないことだった。「本当に営業って全人類に役立つんだな」。そう感じた理由は、本書が示す営業の定義にある。自分と相手の思いを一致させること。そして、決まった型を持つのではなく、常に相手を観察し、相手に合わせて、できるだけ相手よりほんの少し丁寧にすること。矢島はその一文を「人間関係のやり方の全て」と評した。
編集者ならではの視点も光った。書名に「営業」を入れていないことだ。齋田氏自身、当初は「キーエンス最強の営業」といったタイトルを思い描いていたという。だが担当編集の大隅は、営業職以外にも役立つノウハウが詰まっていると見抜き、「働き方」の一冊として世に送り出した。矢島は同業者として、そこに大隅らしい編集の妙を見ていた。ビジネスの小ネタ好きを自認する矢島のお気に入りは、人事情報を聞き出すコツ。資料に空欄をつくっておくと、人はつい埋めたくなる。そんな一行にも、相手の動きを読み切る技術が宿っている。
聴きどころ ④700年続く漁師の家と、「1位を目指せ」
なぜ、あれほどまでに1位にこだわったのか。実はそれは、執筆中に担当編集の大隅から繰り返し問われ続けた質問でもあった。深く振り返った末にたどり着いたのは、父の言葉だった。
齋田氏の実家は、700年以上続く漁師の家系。それでも父は一度も「継いでくれ」とは言わなかったという。
「とにかく好きなことをやりなさいと。その代わり、人に迷惑をかけるなということと、とにかく1位を目指しなさいと」
漁師だった父は、小さな魚を逃がす資源保護の取り組みを広げていた。周りを巻き込めたのは、自分が1位だったから。2位や3位では誰もついてこなかった。最近になって父からそう聞かされたという。そして齋田氏自身も、キーエンスで同じことを知る。
「1位を取った自分だからこそ、自分の営業手法をみんな聞いてくれる」
だから目指す1位は、小さくてかまわない。チームの1位でも、同期の中の1位でも。「もう本当に小さい1位で全く問題ないと思います」。目指すことで工夫が生まれ、その紡ぎ重ねが大きな成果になる。
その知見を、いまは株式会社キーレイズで企業に届けている。独自メソッド「アクションセリング」は、考えさせる前に行動を決めるのが特徴だ。リスト作成、アポイント、提案、クロージングまで、一つひとつのアクションを具体化していく。教えなくても売れる人は1〜2割、教えなければ売れない人が7〜9割。その大多数を引き上げることが、「売れないセールスパーソンをゼロにして、日本経済をもう一度強くする」という齋田氏の使命につながっている。
越境がもたらしたもの
自らの源流を掘り当てたのは、担当編集・大隅の執拗な「なぜ」だった。そしてラジオのスタジオでは、別の版元の編集長である矢島が、その本の編集上の決断までを言葉にした。一冊の本をめぐり、二人の編集者がそれぞれの立場から著者に光を当てる。越境の読み手だからこそ、書名に込めた意図も、著者の原点も、まっすぐに引き出すことができた。
才能に恵まれなかったと語る人が、技術と反復と、父から受け継いだ「1位」への意志で頂点に立った。放送を聴けば、齋田 真司 氏がなぜ多くの営業パーソンに「自分にもできる」と思わせるのか、その理由が腑に落ちるはずだ。
ゲスト著者プロフィール
齋田 真司 氏(さいた しんじ)
株式会社キーレイズ 代表取締役。1984年生まれ。明治大学でバイオテクノロジーを学んだのち、2007年に株式会社キーエンスへ新卒入社。人前で話すことを大の苦手としながらも、キーエンスで叩き込まれた「仕事の基本」に独自の「愛されテク」を掛け合わせ、営業個人総合ランキングで史上初となる3期連続を含む計5度の全社1位を獲得。営業責任者としてもチームを複数回1位に導き、海外赴任も経験した。2020年に株式会社日本M&Aセンターへ転職し、企業買収の支援に携わったのち、2022年に株式会社キーレイズを創業。「売れないセールスパーソンをゼロにして、日本経済をもう一度強くする」を掲げ、企業の営業組織の底上げ支援に取り組む。
『キーエンス 最強の働き方 新人からベテランまで、最短で成果を最大化するシンプルなルール』(PHP研究所/2025年9月発売)
史上初の3期連続を含む5度の全社1位。キーエンスの「伝説の営業マン」が、事前準備からコミュニケーション、時間の使い方、部下育成、メンタルまでを41の「愛されテク」として体系化した一冊。営業職に限らず、働くすべての人に効く技術が詰まっている。
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ON AIR放送情報
- 放送日時:2026年10月24日(土)23:00〜23:55
- 放送:全国110局のコミュニティFMで放送
- ♪ 私を作った一曲:YOASOBI「アイドル」(編集部 選曲)
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文責:編集部 Toshi Kinoshita