大山 美和 氏(おおやま みわ)
ネクストステージ・コンサルティング代表/経営財務ドクター®/米国公認会計士
黒字なのに、危険。赤字でも、成長の糸口が見つかる。
——日米35年以上、6,000件超の案件に携わってきた米国公認会計士が、決算書の“行間”に見つけた成長ストーリー。
第12回。すばる舎編集長・小寺裕樹が読み解くのは、日本実業出版社から『どんな状況からでも成長ストーリーが見つかる 決算書の読み方』を上梓した大山美和氏。ゴールドマン・サックス、ボストン大学経営大学院、KPMG、デロイトトーマツを経て独立し、日米35年以上、6,000件超の案件に携わってきた大山氏。決算書という数字の裏に、なぜ「物語」が読めるのか。その視点の原点を、他社の編集長がまっすぐに掘り起こす。
この対談は、どういう“越境”なのか
「@本が読みたくなる、ラジオ」には、ひとつの決めごとがある。自分が編集していない、他社の著者の本を、現役の編集長が読み解く。担当編集という立場のしがらみを離れ、一人のプロの読み手として著者に向き合う——その実践が、この回でも貫かれている。
読み解くのは、すばる舎編集長・小寺裕樹。相対するのは、日本実業出版社から『決算書の読み方』を上梓した大山美和氏。決算や会計の専門家ではない編集者だからこそ、「数字の本」を「人の本」として読み解くことができる。そしてその素直な読みが、この回でも思いがけない場所へ対話を運んでいく。
今日の一冊——美和子と翔太が出会う『決算書の読み方』
番組は、ある場面のナレーションから幕を開ける。会議室のテーブルには、新規取引先候補の3期分の決算書のコピーが積まれている。数字を前に、翔太は首をかしげて唸っている。「黒字なのに心配な会社も、赤字なのに大丈夫そうな会社もあるらしく……どうやって見分けるのか、違いがよくわからないんです」——今日の一冊、大山美和氏の『決算書の読み方』を、二人のやりとりが解きほぐしていく。
通りかかった美和子が資料を覗き込む。「そうそう、その感覚が、実は大事。数字の裏にある物語を読めるかどうかなのよね」。著者の大山美和氏は米国公認会計士。日米で35年、企業の成長戦略や事業再生に携わり、手がけた案件は6,000件を超える。本書が伝えるのは読み方の技術だけではない。黒字か赤字か、資産超過か債務超過か——どんな状況の会社にも、成長へとつながる糸口があるという視点だ。絶好調に見える会社に潜む危険、赤字の裏に隠れたチャンス。企業再生や事業承継の現場に立ち続けてきた著者だからこそ見える「決算書の行間」を、8つの視点から事例とともに解き明かす。
「じゃあ、この会社も……」翔太が資料をめくり直す。美和子はうなずく。「そう。数字は、過去の活動の成績ではなく、その行間には、これから選べる会社の未来の成長ストーリーが書かれているのよ」。
「数字は、過去の活動の成績ではなく、その行間には、これから選べる会社の未来の成長ストーリーが書かれているのよ」
聴きどころ ①なぜ、公認会計士でも税理士でもない道から、決算書を成長戦略につなげる経営財務の専門家になったのか
ゲストトークは、大山氏の意外な経歴から始まった。もともと経営や会計の世界を志していたわけではない。日本女子大学でアメリカ研究を学んでいた大山氏は、たまたま日経新聞で目にした「ゴールドマン・サックス」の文字に惹かれ、手紙を書いて受験を申し込む。当時、周囲に会社の名を知る者は誰もいなかった。それでも人事部を通さず、面接を担当する部門から直接連絡が来て、入社が決まる。
「私自身もそんなにすごい会社なんて分かってない状態で入ってるんですよね」
入社後は経費精算からトレーダー管理までを担うバックオフィス部門を経験し、先物取引が始まった年には、新入社員ながら大蔵省への説明資料づくりを任されたという。転機はその後訪れる。留学後、湾岸戦争の影響で、入社予定だった会社が設立されず、「私、職がないみたいな」状態に。そこから流れ着いたのが、会計事務所だった。当初は想定していなかった会計の世界に、大山氏はこうして足を踏み入れることになる。
聴きどころ ②「黒字なのに、危険」——4つの健康状態が教えてくれること
本書の核となるのは、会社を「営業黒字・営業赤字」×「資産超過・債務超過」の2軸で4タイプに分け、それぞれの成長の糸口を示す視点だ。小寺編集長は「決算書の読み方だけを教える本というより、その数字を見てその会社の未来をどう考えるかというところまで捉えている」と評する。
収録で語られたのは、常識とは逆の指摘だった。黒字で資産も潤沢な「第一象限」の会社が、実は、特に注意を要するのだという。
「高速で追い越し車線をガンガン行くみたいな状態ですよね。でも実はそこが一番この4つの健康状態で、見過ごすと経営への影響が大きくて……高速で走ってる時に、いきなり何かがバーンと車に降ってきたらどうなりますか」
好調のまっただ中にいるときほど、次の一手を怠りやすい。コロナ禍で一気に苦境に転落した企業の多くが、まさにこの「第一象限」から「第四象限」への転落だったと大山氏は指摘する。決算書は「良い会社・悪い会社」を裁く成績表ではなく、いまの状態に応じて次に何をすべきかを示す未来への設計図なのだという視点が、ここで語られた。
聴きどころ ③一冊の本の起点になった、消えない後悔
大山氏がこの本を書くに至った原点には、忘れられない経験がある。事業再生の現場で支援していたある会社から、大山氏のチームは力及ばず離れざるを得なくなった。その翌年、当の社長が亡くなり、代替わりが起きていたことを知る。
「私たちが引いた時に、社長からランチでも行かないかっていう話が来ていて。とはいえ私たち引き上げさせられた身だったから、連絡しなかったんです。でも翌年お亡くなりになってしまった」
因果関係を断定することはできないと大山氏は繰り返し断ったうえで、経営者が会社の問題を一人で抱える重さと孤独を、この経験から痛感したと語る。銀行や弁護士など、それぞれの立場の専門家に相談しても、全体を見て未来のシナリオを描く「脚本家」の役割を果たす人がいなければ、支援がかみ合わないことがあるという。誰にも本当の意味で相談できないまま追い詰められる経営者を一人でも減らしたい——その想いが、本書の背骨になっている。
聴きどころ ④生放送で明かされた、ナビゲーターの“危機”、そして生まれた新刊の芽
この回で印象的だったのは、大山氏の話を受けて、進行役のあつみゆりか自身が語った経験だ。小寺編集長から「経営者としてどう読んだか」と水を向けられたあつみは、自らが経営するブライダル業界の会社が、コロナ禍で全面ストップした過去を明かす。
「まさに第一象限が第四象限に一気に転がり込むみたいな危機を」——普段は進行役に徹するあつみが、著者の言葉に触発されて自らの経営危機を打ち明ける、番組の中でも珍しい瞬間になった。
もう一つの芽は、対談の締めくくり近くで生まれた。大山氏の現場経験の豊富さに触れた小寺編集長が、「いつかそのビジネス小説みたいな書いてもらったらめちゃくちゃ面白そうだね」と口にする場面があった。もちろん、これは対談の高揚のなかで交わされた言葉であり、どこまで本気かは二人にしかわからない。だが、決算書を成長戦略につなげる経営財務の専門家から新しい形の一冊が生まれる可能性を、この回はほのめかしている。
越境がもたらしたもの
会計や決算の専門家ではない編集者だからこそ、大山氏の本質を利害から自由に引き出せた。「自分の会社もこれに当てはまるかも」と読者を当事者にする本のつくり、実務経験に裏打ちされた事例の生々しさ、そして著者自身も気づいていなかったかもしれない、ナビゲーターの経営者としての一面——担当編集なら聞きづらいことも、越境の読み手だからまっすぐ問える。その健全さが、この回でも番組の輪郭をくっきりと描き出した。
ゲスト著者プロフィール
大山 美和 氏(おおやま みわ)
経営財務ドクター®、米国公認会計士、国際経営財務コンサルタント。日米で35年にわたり、企業の成長戦略づくりや事業再生に携わる。ゴールドマン・サックス証券東京支店勤務ののち渡米し、ボストン大学経営大学院でファイナンスと会計を学ぶ。KPMGニューヨークを経て帰国後、KPMGの日本拠点創設に参画し、大手金融機関の不良債権処理や企業再生アドバイザーのパイオニアとして活躍。その後デロイトトーマツで、企業再生から国内外のM&Aまで幅広いファイナンシャルアドバイザリー業務を手がけ、これまでに携わった案件は6,000件を超える。現在はネクストステージ・コンサルティングおよびファミリービジネス事業承継研究所の代表として、中小企業や後継者不足に悩むファミリービジネスの成長、再生、事業承継の現場に立ち続けている。
『どんな状況からでも成長ストーリーが見つかる 決算書の読み方』(日本実業出版社/2026年3月21日発売)
「営業黒字・営業赤字」×「資産超過・債務超過」の2軸で会社を4タイプに分け、それぞれの成長ストーリーの見つけ方を8つの視点から解き明かす一冊。6,000件を超える企業支援の実務経験に基づき、黒字でも危ない会社、赤字でもチャンスがある会社の見分け方を、事例とともに伝える。
GUEST'S WORKゲストの活動・関連リンク
ON AIR放送情報
- 放送日時:2026年9月26日(土)23:00〜23:55
- 放送:全国110局のコミュニティFMで放送
- ♪ 私を作った一曲:中島みゆき「地上の星」(大山 美和 氏 選曲)
ABOUT@本が読みたくなる、ラジオ
「@本が読みたくなる、ラジオ」は、自分が編集していない、他社の著者の本を、現役編集長が読み解くという決めごとを持つ対談ラジオ番組です。担当編集という利害から自由な読み手だからこそ、著者の本質にまっすぐ切り込む。ナビゲーターのあつみゆりかとともに、全国110局のコミュニティFMで放送中。
文責:編集部 Toshi Kinoshita