永松 茂久 氏(ながまつ しげひさ)
株式会社人財育成JAPAN 代表取締役
「話し方の専門家じゃない」と断り続けた男が、令和でいちばん売れた本を書いた。
——その裏にあった、編集者と営業マンとの“本音を言える絆”。
3坪のたこ焼きの行商から身を起こし、飲食店経営者として人と向き合い続けてきた永松 茂久 氏。「令和でいちばん売れた本」と称される『人は話し方が9割』は、実は著者本人が何年も書くことを断り続けた一冊だった。飛鳥新社編集長・矢島和郎が読み解くこの回には、すばる舎の編集長と営業マンまでが飛び込んできた。スタジオに集まったのは、ミリオンセラーを生んだ“チーム”そのものだった。
この対談は、どういう“越境”なのか
「@本が読みたくなる、ラジオ」には、ひとつの決めごとがある。自分が編集していない、他社の著者の本を、現役の編集長が読み解く。今回その役を務めるのは、飛鳥新社編集長・矢島和郎。すばる舎から刊行された『人は話し方が9割』に、他社の編集者として向き合う。
ただし、この回はいつもと少し様子が違う。スタジオには、すばる舎編集長・小寺裕樹の姿もあった。同じ版元の編集長は、本来この番組には出ない。本人も「ちょっとグレー」と笑いながら、番組プロデューサーの了承を得たうえでの“弟分枠”だと明かした。小寺はこの本の担当ではない。前職の出版社で『30代を無駄に生きるな』『20代を無難に生きるな』(いずれもきずな出版)をともに作った、永松氏の弟分である。
さらに収録の途中、永松氏が何度も名前を口にしていた“あの人”まで駆けつける。すばる舎営業部の原口 大輔 氏。他社の編集長が読み解き、版元の編集長と営業マンが舞台裏を語る。番組の越境は、この回で思いがけない広がりを見せた。
今日の一冊——美和子と翔太が出会う『人は話し方が9割』
番組は、ある場面のナレーションから始まる。オンライン商談で言葉に詰まった翔太に、隣のデスクの美和子が声をかける。「あなた、否定から入ってない?」
翔太には、相手の意見にまず反論してしまう癖があった。美和子は、否定せずに話を広げること、話す力より聞く力が人間関係を動かすこと、相手の話を一言広げる「拡張話法」があることを教える。中身さえよければ伝わる、と思っていた翔太は半信半疑だった。それでも、その知恵が実業の現場で試行錯誤から生まれたものだと知って、少し見方が変わる。美和子は一冊の本を机に置く。「今度の商談の前に、読んでみたら」。
特別な才能はいらない。小さな工夫の積み重ねが人生を変えていく。今日の一冊は、そんなメッセージを手渡してくれる。
聴きどころ ①何年も断り続けた男が、3日で書き上げるまで
意外な告白から始まった。永松氏は、話し方の本だけは書きたくなかったという。たこ焼き屋から飲食店を広げてきた経営者が、なぜ話し方を書くのか。自分は専門家ではない、と断り続けた。粘ったのは、すばる舎の営業マン・原口 大輔 氏だった。飲みの席の最後には決まって「いい加減書いてください」と迫り、言い合いになるのが恒例だったという。
最後はすばる舎の編集長・上江洲 安成 氏の「もう1回だけ」に押され、「1冊だけな」と引き受けた。ところが一冊分を書き上げたあと、原稿を囲む席で原口氏がぽつりと言う。
「この本面白くないですね」
場面ごとの話し方のテクニックを並べた原稿は、ボツになった。そのとき上江洲氏が投げかけたのが、「話し方について1つだけ伝えるとしたら何か」という問いだった。永松氏の答えは、この本の背骨になる。
「話し方はスキルよりメンタル」
「話し方がテーマですけど中身はメンタル本でいきましょう」と上江洲氏が受け止めた。そこから書き直した原稿は、わずか3日で仕上がる。永松氏は、自分の本は「話し方のマインド本なんですよね」と語る。テクニックの本で専門家に勝てるはずがない。だから、生き方とあり方を書いた。それが結果として、日本中の“話すことに悩む人”に届いた。
聴きどころ ②編集長が読んだ「人生論」——苦手な人と、話さなくていい
番組のメインコーナー「編集長の読みどころ」。他社の編集者として本書を読んだ矢島は、こう言い切った。
「この本はもはや人生論だと思いました」
矢島が挙げたのは、冒頭と結びの2か所だ。冒頭の「嫌いな人と話さなくていい」。そして最後の項目「相手が幸せでありますように」と思うこと。窮屈になった令和の世の中を楽しく生きる方法を、この本は先取りしていた、と矢島は読む。
永松氏は「拾ってくださって」と応じ、構成の狙いを明かした。どうせ1冊だけだから、いちばん伝えたいことを最初と最後に置こう、と決めたのだという。話し方の悩みで最も多かったのは、苦手な人との接し方だった。
「そもそも苦手な人と話さなくていい」
苦手な人との時間を極限まで減らし、自分を肯定してくれる人との時間を増やす。それが精神的に健全だ、と永松氏は語る。そして最後に置いた一文には、こんな確信があった。話が下手でも、途切れてもかまわない。
「人はちゃんと心を受け取るセンサーを持ってる」
新コーナー「矢島の小ネタ集」で矢島が選んだのは、エレベーターの一節だった。エレベーターは公共の場だから、無理に話しかけなくていい。永松氏は、その背景にある執筆上の掟を明かす。
「自分がやってできないようなことは絶対書くのはやめよう」
ふつうの人が無理だと感じることは、書かない。読者と同じ目線に立ち続ける姿勢こそが、10代から80代までに届いた理由なのかもしれない。
聴きどころ ③「つまらない」と言えた営業マン——原口 大輔 氏、乱入
収録の後半、スタジオに“本人”が現れる。すばる舎営業部の原口 大輔 氏だ。あつみが真っ先に聞いたのは、あの「面白くないですね」の真意だった。
原口氏は振り返る。永松氏の本を何冊も読んできたから、期待値が高かった。届いた原稿は、永松氏らしい文体でも文脈でもなかった。このままではいけないと思い、「申し訳ないんですけど、つまんないです」と口にした。静まり返った場で、永松氏は「正直に言ってください」と促したという。永松氏の答えは、こうだった。
「分かってたんですよ、自分で」
原口氏が話し方の本を頼み続けた理由も明かされる。永松氏は相手の話を驚くほどきちんと聞き、相手との距離感に集中する。だから誰とでもすぐに打ち解ける。本人は「そんなの普通だよ」と言うだけだった。その「普通」が、ほかの人には普通ではなかった。
永松氏自身も、聞くことの原点を語った。飲食店時代は誕生日祝いのサプライズが毎日のようにあり、本を出してからは全国から悩みを抱えた読者が集まった。テーブルで向き合い続けるうちに、と永松氏は言う。
「ひたすら話を聞くうちにやっぱ面白くなっちゃった」
原口氏が衝撃を受けたのは、永松氏が営業を企画段階から巻き込む著者だったことだ。
「大輔お前一緒に打ち合わせ入ろうや」
そこには、飲食店時代の気づきがあった。料理を作る厨房と、お客様に料理を運ぶホール。うまくいき始めたのは、お客様の声を知るホールと一緒に店をつくり始めてからだった。
「だったらみんなで作った方が良くねえかと」
聴きどころ ④「チームが強いところが勝つ」——出版社の垣根を越えた物語
なぜ、この本はあれほど売れたのか。永松氏の答えは拍子抜けするほどあっさりしていた。
「僕本当に努力なんか何もしてないんですよ」
発売の数か月後、ある書店の売り場で火がつき、一気に増刷が重なった。JRの車内広告まで決めて勝負に出た矢先、緊急事態宣言が出る。広告が出た日に山手線に乗ってみると、車両には2、3人しかいなかった。「終わった」と思ったその後、注文はむしろ急増した。リモート会議という新しいコミュニケーションの形に戸惑う人たちの手に、この本が渡っていった。永松氏はそれを、運とチームのおかげだと言う。
そのチームの絆は、出版社の垣根まで越えていく。本書が3年連続でビジネス書1位を獲った後、原口氏は永松氏に“友達”を紹介した。ライツ社の社長である。その場で「うちからも一冊」という話になり、生まれたのが、ミリオンセラーの舞台裏を明かした『読まない人に、本を売れ。』(ライツ社)だった。すばる舎の営業マンが他社を連れてきて、すばる舎の社長も編集長も喜んでいる。永松氏の驚きは、そのまま番組の越境コンセプトとも重なった。
永松氏は、これからの出版をこう見ている。
「チームが強いところが勝つと思ってて」
編集がいい本を作り、営業が売り、書店が全力で届ける。その総合力の時代に、もう「著者だけの力でなんとかなるような時代じゃない」。ヒアリングシートで永松氏が「ぜひ触れてほしい」と挙げたのは、編集者と出版営業マンとの絆だった。その言葉は、スタジオに集まった顔ぶれによって、そのまま実証された。
越境がもたらしたもの
他社の編集長が読み解いたからこそ、この本が「話し方の本」ではなく「人生論」であることが、言葉としてはっきり示された。そして版元の編集長と営業マンが同じテーブルに着いたことで、一冊のベストセラーが、著者と編集者と営業マンが本音でぶつかり合える関係から生まれた事実が、当事者の声で立ち上がった。
「つまらない」と言える営業マンがいて、それを笑って受け止める著者がいる。永松 茂久 氏という人の話し方の核心は、テクニックではなく、まさにその関係の作り方にあった。55分の放送を聴けば、なぜこの人の周りにいつも人が集まるのかがよくわかるはずだ。
ゲスト著者プロフィール
永松 茂久 氏(ながまつ しげひさ)
株式会社人財育成JAPAN 代表取締役。人口8万人の大分県中津市出身。26歳のとき、3坪の小さなたこ焼きの行商から商売を始め、地元で開いた「ダイニング陽なた家」は、お客様へのサプライズのバースデー祝いが口コミで広がり、年間4万人が訪れる繁盛店に成長した。お客様の願いから始めたウェディングをきっかけに出版社の編集長と出会い、作家の道へ。現在は、人との関わり方や人の在り方をテーマに全国で講演・執筆を行うほか、次世代の著者育成や、さまざまな人の「未来実現プロデュース」に力を注いでいる。
『人は話し方が9割』(すばる舎/2019年9月発売)
話し方はスキルよりメンタル。苦手な人と無理に話さず、大切な人との時間を増やすこと。否定せず、聞き、話を広げること。最後は「相手が幸せでありますように」と願うこと。テクニックの前にあり方を説き、「令和でいちばん売れた本」と称されるミリオンセラー。
GUEST'S WORKゲストの活動・関連リンク
- 永松茂久 公式サイト ↗
(無料オフィシャルクラブ「永松茂久未来会議」をはじめ、講演・出版プロデュース・メルマガなど最新の活動は公式サイトから)
ON AIR放送情報
- 放送日時:2026年11月14日(土)23:00〜23:55
- 放送:全国110局のコミュニティFMで放送
- ♪ 私を作った一曲:コブクロ「君という名の翼」(永松 茂久 氏 選曲)
ABOUT@本が読みたくなる、ラジオ
「@本が読みたくなる、ラジオ」は、自分が編集していない、他社の著者の本を、現役編集長が読み解くという決めごとを持つ対談ラジオ番組です。担当編集という利害から自由な読み手だからこそ、著者の本質にまっすぐ切り込む。ナビゲーターのあつみゆりかとともに、全国110局のコミュニティFMで放送中。
文責:編集部 Toshi Kinoshita