村田 慎二郎 氏(むらた しんじろう)
国境なき医師団日本 事務局長/元活動責任者(日本人として初)/ハーバード・ケネディスクール MPA
紛争地で10年。
——その先に見えたのは、遠い誰かの話ではなく、自分自身の命の使い方だった。
第14回。PHP研究所編集長・大隅元が読み解くのは、サンマーク出版から『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』を上梓した村田慎二郎氏。スーダン、シリア、イラク、イエメン——世界でもっとも過酷な紛争地で人道援助活動に携わってきたこの人物が、10年以上の現場経験の果てにたどり着いたのは、遠い国の話ではなく、私たち自身に向けられた一つの問いだった。
この対談は、どういう“越境”なのか
「@本が読みたくなる、ラジオ」には、ひとつの決めごとがある。自分が編集していない、他社の著者の本を、現役編集長が読み解く。 ビジネス書を主戦場としてきたパーソナリティが、紛争地の最前線を10年以上見つめてきた人物と向き合う——今回の対談は、番組がこれまで扱ってきたどの回よりも大きく越境した回となった。
読み解くのは、PHP研究所編集長・大隅元。相対するのは、サンマーク出版から本作を上梓した村田慎二郎氏。「今まではわりとビジネス書ど真ん中や健康系の本を扱うことが多かった」と大隅自身が語るとおり、この日の対話は、リスナーがまだ見たことのない世界への扉を開くものになった。
今日の一冊——美和子と翔太が出会う『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』
番組は、ある場面のナレーションから幕を開ける。出張帰りの新幹線。窓の外を流れる景色を眺めながら、翔太はスマートフォンでニュースを見ていた。画面には、遠い国の紛争のニュース。「かわいそうだし大変だとは思うけど、正直実感が湧かないんですよね」——そこへ美和子が、鞄から一冊の本を取り出す。今日の一冊、村田慎二郎氏の『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』を、二人のやりとりが解きほぐしていく。
著者の村田慎二郎氏は、国境なき医師団日本の事務局長。スーダン、シリア、イラク、イエメンなど世界でもっとも過酷な紛争地で10年以上にわたり人道援助活動に携わってきた。家はない。学校はない。でも、命はある——そんな人々と向き合うなかで、村田氏が本書で問いかけるのは、紛争や人道援助の話だけではない。もっと身近で、私たち自身の人生にも関わる問い。それは「命の次に大事なことは何だろう」という問いだ。
この本はその答えを押しつける本ではない。自分は何のために生きるのか、限られた時間を何に使いたいのかを考える本なのだと、美和子は静かに語る。村田氏自身も、最初から特別な人生を歩んできたわけではない。英語に苦労し、国境なき医師団の採用試験に二度落ちた経験もある。それでも、自分の命をどう使いたいのかを問い続けながら、一歩ずつ前へ進んできた。翔太は本を閉じて、窓の外を見る。「俺は、何を大事にして自分の命を使っているんだろう」——その問いは、遠い紛争地ではなく、この日本で今を生きる私たち自身にも向けられている。
聴きどころ ①医師じゃなくても働ける組織、その実態
ゲストトークは、国境なき医師団(MSF)という組織そのものへの誤解を解くところから始まった。1971年、フランスで医師とジャーナリストによって設立された民間の非営利・医療人道援助団体。緊急の医療人道援助と、現地で目の当たりにした人道危機を社会に訴える「証言活動」——この二つを活動の軸に、現在は世界70カ国以上で活動を展開している(1999年にはノーベル平和賞を受賞)。
「国境なき医師団で仕事してますと言うと、いまだに『必ずお医者さんなんですか』と聞かれる」と村田氏。だが実際には、現地で活動するスタッフの約半分は医師でも看護師でもない、いわゆる「非医療」スタッフだ。人事・経理・財務・ロジスティクス——医師や看護師が医療だけに専念できるよう、水も電気もない場所に病院を建て、物資を届ける仕事を担う人たちがいる。村田氏自身も、外資系IT企業で3年間営業職を経験したのち、2005年に非医療スタッフ(ロジスティシャン)としてこの世界に飛び込んだ一人だ。
聴きどころ ②英語力ゼロから、日本人初の事務局長へ
村田氏の経歴は、聴く者を何度も驚かせる。静岡大学卒業後、フリーターの時期を経て外資系IT企業に営業職として就職。国境なき医師団への参加を志すも、英語力の壁に阻まれ二度の入団試験に不合格。それでも諦めず、2005年に参加を果たした。
現地の医療活動を支える物資輸送や水の確保を担うロジスティシャンとしてキャリアをスタートし、2012年には、派遣国の全プロジェクトを指揮する「活動責任者」に日本人として初めて任命される。以来10年以上、スーダン、シリア、南スーダン、イエメンなど世界でもっとも過酷な紛争地で人道援助活動に従事。2019年からは、医療への攻撃を止めさせるための戦略を学ぶため、40代でハーバード・ケネディスクールに留学。全額奨学金を得て行政学修士(MPA)を取得し、2020年、日本人として初めて国境なき医師団日本の事務局長に就任した。
大学卒業に医師免許も修士号も、参加の必須条件ではない。
「どれだけコミットメントがあるか」
それが問われる世界だと村田氏は語る。
聴きどころ ③あつみとの意外な接点、そして杉村太郎氏の教え
この回のもう一つの見どころは、収録中に明かされた村田氏とナビゲーター・あつみの意外なつながりだった。二人は、キャリアデザインスクール「我究館」の先輩後輩(村田氏が7期生、あつみが8期生)。10年以上続く「親友の会」を共にする間柄だという。
村田氏にとって、就職氷河期に一社からも一次面接すら通らなかった学生時代、我究館創立者・杉村太郎氏の著書に触発されて静岡から東京まで通った経験は、大きな転機だった。杉村氏との個別面談で、自分の実力を実際より大きく見せようとしていたことを見抜かれ、「ありのままの自分を信じてやれ」という趣旨の教えを受けたエピソードも語られた。この我究館での経験は、本書の中でも重要なモチーフとして描かれている。
番組中盤の「私を作った一曲」では、SMAP「夜空ノムコウ」を選曲。
「40代で留学を目指し勉強していましたが、思うような結果が出ず、挑戦を続けるべきか、現実を受け入れるべきかで悩んでいた時によく聴いていました」
と、留学挑戦時の葛藤を明かした。
聴きどころ ④「命の次に大事なこと」——本の構造に込められた編集の哲学
大隅は、本書を「まるで映画を見ているような臨場感がある本」と評した。韓国旅行の機内で、隣に座る子どもに誘われたアニメ視聴を断ってまで読みふけり、ダルフール地方の難民キャンプの場面から始まる冒頭の衝撃、紛争地で出会った忘れがたい人物との出会い(本書「アイデンティティ」の章に描かれるエピソード)、そしてハーバードでの学び——次にどこへ連れて行かれるか予測できない構成に引き込まれたという。
本書は時系列ではなく、「世界」「アイデンティティ」「夢」「戦略」「リーダーシップ」「パブリック」という6つのテーマで章立てされている。この構成について村田氏は、サンマーク出版の編集者と共に「伝えたいこと」をすべてリスト化し、そこからテーマごとに再構成していったプロセスを明かした。
本書で紹介されるハーバード・ケネディスクールのハイフェッツ教授の「アダプティブ・リーダーシップ論」——リーダーシップとはポジションではなくアクションである、組織のどの立場の人間でも取りうるものだという考え方——は、村田氏自身が活動責任者として重ねてきた意思決定を振り返る軸にもなったという。
大隅自身、かつて論壇誌の編集記者として2015年のISIL人質事件の特集を組んだが、まったく売れず「なぜ伝わらないのか」と悔しい思いをした経験があるという。その体験と重ね合わせながら、遠い出来事を「自分ごと」として届けるための本書の設計に、編集者として深く共感したことを語った。
越境がもたらしたもの
ビジネス書中心だった番組が、紛争地の人道援助という未知の領域に踏み込んだこの回。編集を担当していない読み手だからこそ、書籍紹介にとどまらず、著者自身の経歴、恩師との縁、そして「命の使い方」という本質的な問いにまっすぐ向き合うことができた。担当編集者との忌憚のない創作過程のやりとりまで、越境の読み手だからこそ引き出せた対話がここにある。
村田慎二郎氏という人物と、その10年以上の紛争地経験の重みを、これほど立体的に浮かび上がらせた55分。放送を聴けば、遠い国の出来事だと思っていた問いが、実は自分自身の人生に向けられていたことに気づくはずだ。
ゲスト著者プロフィール
村田 慎二郎 氏(むらた しんじろう)
国境なき医師団日本 事務局長。1977年、三重県生まれ。静岡大学卒業後、外資系IT企業で営業職として3年間勤務。国境なき医師団への参加を志すも、英語力の壁に阻まれ二度の入団試験に不合格。それでも諦めず、2005年に国境なき医師団に参加。現地の医療活動を支える物資輸送や水の確保を担うロジスティシャンとしてキャリアをスタートし、2012年には、派遣国の全プロジェクトを指揮する「活動責任者」に日本人として初めて任命される。以来10年以上にわたり、スーダン、シリア、南スーダン、イエメンなど世界でもっとも過酷な紛争地で人道援助活動に従事。2019年からは、ハーバード・ケネディスクールに留学、全額奨学金を得て行政学修士(MPA)を取得。2020年、日本人として初めて国境なき医師団日本の事務局長に就任。現在は長期的な視点から組織の戦略と開発に取り組みながら、学生や社会人向けのライフデザインの講演も精力的に行っている。NHK「クローズアップ現代」をはじめ、メディア出演多数。
『「国境なき医師団」の僕が世界一過酷な場所で見つけた命の次に大事なこと』(サンマーク出版/2023年10月17日発売)
紛争地で10年以上を過ごした著者が、命が限られていることを強く意識させられる現場で見つめ続けてきた「命の次に大事なことは何か」という問い。読者に特定の答えを押しつけるのではなく、自分自身の命の使い方を考えるきっかけを手渡す一冊。なお、本書の印税はすべて国境なき医師団に寄付される。
GUEST'S WORKゲストの活動・関連リンク
- 国境なき医師団日本 公式サイト ↗(本文中で言及された、活動を支える寄付についての案内先)
ON AIR放送情報
- 放送日時:2026年10月10日(土)23:00〜23:55
- 放送:全国110局のコミュニティFMで放送
- ♪ 私を作った一曲:SMAP「夜空ノムコウ」(村田 慎二郎 氏 選曲)
ABOUT@本が読みたくなる、ラジオ
「@本が読みたくなる、ラジオ」は、自分が編集していない、他社の著者の本を、現役編集長が読み解くという決めごとを持つ対談ラジオ番組です。担当編集という利害から自由な読み手だからこそ、著者の本質にまっすぐ切り込む。ナビゲーターのあつみゆりかとともに、全国110局のコミュニティFMで放送中。
文責:編集部 Toshi Kinoshita