今井 孝 氏(いまい たかし)
起業コンサルタント/株式会社キャリッジウェイ・コンサルティング 代表取締役/ビジネス書著者(累計30万部)
将棋盤を誰も持ってこなかった日。
——「全員が得しようとした結果、誰も得しなかった」
飛鳥新社編集長・矢島和郎が読み解くのは、すばる舎から『小さな「GIVE」』を放った今井 孝 氏。3万人以上の起業家を導いてきたこの人物が、GIVEをテーマに選んだのには理由がある。小学校の将棋部のある出来事から、1000人会場がガラガラになった失敗、そして先輩起業家からのメルマガ一本——人生の転機がことごとく「与えること」と結びついていた。
この対談は、どういう“越境”なのか
「@本が読みたくなる、ラジオ」には、ひとつの決めごとがある。自分が編集していない、他社の著者の本を、現役の編集長が読み解く。 担当編集という立場のしがらみを離れ、一人のプロの読み手として著者に向き合う——その実践の第2回だ。
読み解くのは、飛鳥新社常務取締役・矢島和郎。翻訳書からビジネス書まで幅広く手がけ、『「繊細さん」の本』60万部など数々のベストセラーを生んできた編集長だ。相対するのは、すばる舎から『小さな「GIVE」』を上梓した今井 孝 氏。利害から自由な読み手だからこそ、「なぜこの本でなければならなかったか」を迷いなく問い直せる。矢島和郎が今井 孝 氏に向けた眼差しは、終始温かく、そして鋭かった。
今日の一冊——美和子と翔太が出会う『小さな「GIVE」』
番組は、ある場面のナレーションから幕を開ける。お昼休みのランチルームで美和子が一冊の本を読んでいる。そこへ翔太が入ってきた。後ろから両手がふさがった同僚がやってきて、翔太は振り返ってドアを押さえてあげた。それを見ていた美和子が、本を持ち上げて言う。「まさにそれよ、この『小さなGIVE』って本!」
今井 孝 氏は、起業コンサルタントとして3万人以上の起業家を導いてきた実業家。著書は累計40冊以上。代表作『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』は10万部超のベストセラーだ。
この本が説くのは、大きな犠牲ではない。翔太のように日常のちょっとした気遣いを習慣にすること——それだけで人生が変わっていくと著者は言い切る。「でも俺、意識してやったわけじゃないですよ」。「そう。だからこそ意識してやることが大切なの。それだけで積み重なるものが全然違うんだから」。難しいことは何もない。コストもかからない。今すぐ始められる——だから「世界一シンプル」なのだ。
聴きどころ ①将棋盤を誰も持ってこなかった日
ゲストトークは、矢島和郎が本書の核心を一点に絞るところから始まった。GIVEをテーマにした本は以前にもあった。だがこの本は違う——「ハードルが高いとか、上から目線じゃないとできないという気がしてしまいがちなGIVEが、どんな人にでもできると伝わってくる。しかも具体的なテクニックまで入っている」と矢島は語る。
今井 孝 氏が本書で語る小学校時代の将棋部のエピソードが、矢島の心に刺さったという。毎回将棋盤を持参していた今井氏が、手ぶらで来る友人を見て「次回は持っていかなくていいか」と思った。そして次の部活の日、そこには驚くべき光景が広がっていた——全員が将棋盤を持ってこなかったのだ。
「自分だけ得しようと思ったら、誰も得しなかった」
矢島はこのエピソードに「仕事の場でも、同じことが起きてるんじゃないかな」と重ねた。小学校時代の場面だからこそ自分の人生でも思い当たる——読者が本を閉じたあとも、ふと将棋盤の話を思い出す。そういう本だ。
聴きどころ ②27個のGIVEリストと、チェックリスト効果
本書第5章には、今日から実践できるGIVEが27個収録されている。「買ってよかったものベスト3を紹介する」「欲しいものリストを公開する」——GIVEと聞いて誰もが連想しないような行為まで含まれている。
矢島が今井 孝 氏に「一番誰でもできる超オススメな一つ」を尋ねると、今井氏は少し考えてから答えた。
「占いしてあげることですかね。手相とかタロットとか、思ったより簡単にできますし、飲み会でもできるし、10分くらい場もつながる。楽しいじゃないですか」
あつみゆりかはこのリストについて、別の視点を提示した。「新しいGIVEのティップスを学ぶだけでなく、自分がすでにやっていることのチェックリストとしても使える。これを見るだけで安心できる効果がある」。それを聞いた今井 孝 氏が深くうなずく。
「日本人はやっぱり自己否定が強くて、謙虚だから『私なんか何もやってない』と言う。でもこの本を読んでいただいたら、もうギブしてるわって思えるようになると思うんです」
自己肯定感が上がり、さらにGIVEが加速する——この本が狙う好循環がここにある。
聴きどころ ③1000人会場がガラガラになった夜
今井 孝 氏の起業歴は20年を超える。2005年末に始め、1年目は「どんどん銀行口座からお金が減っていく」体験をした。その苦境を救ったのが、ある先輩起業家からの一本のメルマガだった。SNSがなく、メルマガしかなかった時代。頼んでもいないのに、先輩が今井氏の講座を告知してくれた。
「こんなに嬉しいんだったら、自分もやっていこうと思いましたね。GIVEされることがこんなに心に響くなんて、と強烈に感動しました」
その経験が出発点となり、今では他の著者が本を出せば自ら買い、講演会があれば紹介し、パーティーには参加する——ギブが習慣になった。
さらに今井 孝 氏は、意外な失敗談も明かした。ある程度稼げるようになった頃、「自分はちゃんといいことをしている」とアピールしたくなり、1000人収容の会場で学生向け講演会を企画した。大人は300人集められた。学生なら1000人は来るだろう——という読みは外れ、1ヶ月前でも100人に届かなかった。新橋でチラシをまき、途方に暮れていたとき、隣に座った女性から思いがけない言葉を受けた。「今井さんが羨ましいです。学生に夢を与えるような仕事ができるなんて」。
「ガーンと頭を打たれたような気持ちになりました。与える気持ちじゃなくて、自分をアピールしたくてやってたんだと気づいて。心を入れ替えてから、あと2〜3週間で600人集まったんです」
失敗談として語り始めたこの話は、結局は成功譚になった——今井 孝 氏という人物の輪郭が、このエピソードで鮮やかに立ち上がる。
聴きどころ ④「損しないゲーム」と、矢島が問うたギバーの話
対談の後半、矢島和郎が一冊の翻訳書を持ち出した。アダム・グラント著『GIVE & TAKE』——ギバー・テイカー・マッチャーという3分類で有名な本だ。「ギバーは一番うまくいくが、一番苦しむこともある。ビジネスマンからするとマッチャーぐらいでいいんじゃないかと思ってしまうこともある」。越境の読み手だからこそ出てくる、利害から自由な問いだった。
今井 孝 氏の答えは明快だった。
「無理しないでGIVEできることはどんどんやればいい。無理してひとりに頑張って与えると、見返りがなくてうつ病になってしまった人もいる。できる範囲で、ギリチョコ感覚でいろんな人に与えていたら、すごくうまくいく」
無理しなければ、与えている感覚もなくなる。習慣になる——それが「小さなGIVE」の核心だ。
この回の最後に、今井 孝 氏は本書が2人の青年を主人公にした冒頭の寓話について触れた。これは小寺裕樹編集長(本番組でも別回のパーソナリティを務める)が「入れましょう」と提案してできたオリジナルの物語だ。「遠い国の小さな街に、リオとルカという2人の青年がいました」——この書き出しが読者をぐっと引き込み、GIVEの哲学へ誘う導線になっている。
対談の終盤、今井 孝 氏のおちゃめな一面も顔をのぞかせた。3年前から「社長のカラオケ大会」を主宰しているという。最初は必死にかき集めて100人。しかし今では予選に200人が集まり、決勝は東京国際フォーラムで開催、芸人ゲストも招く規模になった。「面白いかなと思って始めた。ただただ楽しいことをやる、それもGIVEだと思ってます」と今井氏は笑う。あつみゆりかは2年連続で出場しており、今井氏がXで「今カラオケ大会に出てくれたら今井に恩が売れます」とつぶやいた瞬間に「恩売ります、行きます」と即返信したエピソードも飛び出した。「さすがマッチャーですね」と笑われながらも、これもまた小さなGIVEの連鎖だった。
この番組が引き出したかったのは、まさにこういう場面だ。 編集者の仕事の姿が、他社の著者の本を通して浮かび上がる。矢島和郎が今井 孝 氏に、小寺裕樹が今井 孝 氏の本に込めたものを問う——越境の読み手だからこそ辿り着ける場所があった。
越境がもたらしたもの
担当編集でない読み手だからこそ、今井 孝 氏の本質を利害なく引き出せた。GIVEをテーマにした本が数多くある中で、なぜこの本でなければならなかったか——「具体的なアクションまで見えてこない本が多かった。そこを救いたかった」という今井 孝 氏の答えは、編集者の問いが掘り起こしたものだ。
3万人の起業家に伝えても届かなかったものが、本になってはじめて届く。本の役割を「体験への入り口」と語る今井 孝 氏と、「著者と一番深く向き合える体験ができる」と語る矢島和郎——送り手と受け手が、同じ場所から本の意味を語り合った55分だった。
ゲスト著者プロフィール
今井 孝 氏(いまい たかし)
起業コンサルタント。株式会社キャリッジウェイ・コンサルティング 代表取締役。これまでに3万人以上の起業家にノウハウや考え方を伝え、その最初の一歩を導いてきた。マーケティングとマインドに関するさまざまな教材は、累計3,000本以上が購入されている。著書はシリーズ10万部を突破し、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2025」のビジネス実務部門を受賞。代表作はすばる舎から出版された『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』。
『小さな「GIVE」 世界一シンプルで楽しい人生が変わる習慣』(すばる舎)
大きな犠牲は要らない。日常のちょっとした気遣いを習慣にするだけで、人間関係が豊かになり、仕事のチャンスが生まれ、やがて人生そのものが変わっていく。「すごい人より、愛される人を目指そう」と言い続けてきた著者が、GIVEの具体的な実践を27のリストとともに伝える一冊。
GUEST'S WORKゲストの著作・活動
ON AIR放送情報
- 放送日時:2026年7月18日(土)23:00〜23:55
- 放送:全国110局のコミュニティFMで放送
- ♪ 私を作った一曲:サザンオールスターズ「あなただけを 〜Summer Heartbreak〜」(今井 孝 氏 選曲)
ABOUT@本が読みたくなる、ラジオ
「@本が読みたくなる、ラジオ」は、自分が編集していない、他社の著者の本を、現役編集長が読み解くという決めごとを持つ対談ラジオ番組です。担当編集という利害から自由な読み手だからこそ、著者の本質にまっすぐ切り込む。ナビゲーターのあつみゆりかとともに、全国110局のコミュニティFMで放送中。
文責:編集部 Toshi Kinoshita