ON AIR REPORT 放送レポート
EP10 2026年9月12日(土)23:00〜23:55 本レポート

福田 淳 氏(ふくだ あつし)

連続起業家/株式会社スピーディ 代表取締役CEO

タブーを恐れず、ただ「熱狂できるか」で生きてきた。
——20を超える事業を世界各地で立ち上げてきた男の40年の仕事論。

第10回。株式会社スピーディ代表・福田淳氏は、ソニー・ピクチャーズを経てソニー・デジタルエンタテインメントを創業。独立後は、タレントエージェント事業からロサンゼルスのアートギャラリー運営、無農薬ファーム経営まで、20を超える事業を世界各地で立ち上げ、そのすべてを黒字化してきた。今回、その40年のキャリアの集大成として書かれた一冊『結局、熱狂できる人がうまくいく。』を、飛鳥新社編集長・矢島和郎が読み解く。

福田 淳 氏

この対談は、どういう“越境”なのか

「@本が読みたくなる、ラジオ」には、ひとつの決めごとがある。自分が編集していない、他社の著者の本を、現役の編集長が読み解く。 担当編集という立場のしがらみを離れ、一人のプロの読み手として著者に向き合う——その原則を、この回も貫く。

読み解くのは、飛鳥新社編集長・矢島和郎。相対するのは、PHP研究所から『結局、熱狂できる人がうまくいく。』を上梓した福田淳氏。利害から自由な読み手だからこそ、著者の本質にまっすぐ切り込める。

今日の一冊——美和子と翔太が出会う『結局、熱狂できる人がうまくいく。』

出張帰りの新幹線。窓の外を流れる夜景を眺めながら、翔太はスマホをただ指でなぞっていた。同じ顔ぶれ、同じ会議、同じ資料。入社して数年、仕事は一通りこなせるようになったけれど、心のどこかで「このまま、ずっとこの繰り返しなのかな」と思っている自分がいる。

通路を挟んだ隣の席には、美和子。一冊の本を読み終えたところだった。「翔太くん、これ、新幹線のお供にどうぞ」——差し出されたのは、今日の一冊。著者の福田淳氏は、20を超える事業を世界各地で立ち上げてきた連続起業家だ。一見ばらばらに見える仕事を、福田氏はたった一つの問いでつないできた。それは、「自分が熱狂できるかどうか」。

本書が伝えるのは、成功に特別な才能はいらないということ。頭のよさでも、生まれ持った何かでもなく、夢中になれること。それこそが人を遠くまで運んでいく——福田氏は、40年のキャリアの末に、そう言い切る。世間が「火中の栗」と呼んで避ける仕事こそ、拾う価値がある。タブーを恐れず飛び込んだ先に、道はひらける。

「……熱狂、か。最近、夢中になったこと、あったかな」翔太がぽつりとつぶやく。美和子は静かに言った。「うまくやることばかり考えてたら、たぶん見つからないよ。この本、それを教えてくれる」

聴きどころ ①版元編集長、まさかの「禁じ手」

この回の幕開けは、番組のルールそのものを揺さぶる一幕から始まった。プロフィール紹介のあと、名乗り出たのは版元・PHP研究所編集長の大隅元氏。

「実は本が読みたくなるラジオのパーソナリティも務めさせていただいております。それで今日は特別回と言いますか、禁じ手と言いますか……担当本の編集者として参加させていただいております」

すかさず制作側からツッコミが入る。「それダメなんですよ。本が読みたくなるラジオは、あくまで版元ではない編集者さんが著者さんを深掘りするっていうことが趣旨になってるんですけどね」。大隅氏は「そうですね、すいません」と笑いながら引き下がりつつも、以降は聴き手・矢島の進行を邪魔しない範囲でコメントを添えていく。番組の"越境"というルールを、出演者自身が自覚的に茶化しながら守るという、珍しい幕開けとなった。

聴きどころ ②38億円が一夜で消えた日

矢島編集長が「プロフィールだけ見ると、もうそんな、おこがましいくらい」と切り出すと、福田氏は自ら失敗談を差し出した。ある大手クライアントを怒らせ、自身が経営する世界中のテレビ局から、広告が一夜にして38億円分消えたという事件だ。

「それはフェアに何かのサービスを提供してるから38億払うわけで、それがうまくいかないんだとしょうがないなと思うだけで」

上司からの深夜の叱責も、「別に仕事失敗で殴られるわけでもないですしね。生きてはいけるんで」と受け流す。この失敗は本書にも何度か登場し、福田氏自身「あの時の失敗があったから今の自分がある」と繰り返し語っているという。にもかかわらず本人は「良いことも悪いことも全部忘れちゃいます。だから今もう虫みたいなもんですよ」と笑う。この本が単なる成功譚ではなく「失敗論」として編まれた理由が、ここに滲む。

収録中の福田淳氏と矢島和郎編集長
スタジオでの収録風景

聴きどころ ③「社員が動かない」のは、上司のせいである

福田氏の即断即決の背景には、高級飲食店で「能書き(説明)はいいから牛を出せ!」と言い放った先輩の逸話や、上司から「ミラノに行ってくれ」と言われれば「明日行きます」と即答するのが当たり前だった経営の師の教えがある。「今やるか今すぐやるかみたいなことが習慣としてあった」という。

そこから話は、日本企業の競争力そのものへと及んだ。大企業ほど「計画、計画、また計画」で行動が止まる。福田氏はこの状態を、儀式が儀式を呼び競争力を落としていると喝破する。そして核心はここだ。

「うちの社員は全然動かねえ、それはあんただよと。責任は。あなたうるさいこと言うから、もうみんなうるさいからやめとくかってなるだけで、全部写し鏡なんですよね」

失敗を許容しない、コントロールフリークな上司ほど、部下は動かなくなる。組織は友達作りの場ではないが、それでも楽しくやるためには「みんながやりたいことやっていい」という認識をリーダーが発することが大事だという。「そうやったら息苦しいですよ」——行動予定表にいちいち縛られる働き方への違和感を、福田氏はこの気質を「関西弁で言う『いらち』」と表現しつつ、パンクな気持ちだと笑いながら語った。

聴きどころ ④サウジが仕掛ける「エンタメ国家」、そして旅の効用

話題は一気に世界へ広がる。福田氏が注目するのは、2030年に万博を控えるサウジアラビアだ。「400兆円近い金額を投下してエンターテイメントにシフトをしました」——中東・北アフリカ地域が、インフラ整備の次のフェーズとして「人生をどう楽しむか」に本気で投資し始めていると指摘する。

「基本的なインフラを充足してきたら、次はどうやって人生を楽しむかっていうフェーズに、やっとようやくなってきたと思うんですよね」

「中東は遠い」と口にする人には、地図を見るよう勧める。「ロサンゼルスまで8300キロなんですよ羽田から。同じなんですよドバイまで。なのに遠いって言うんですよね。それ経験したことがないから言うんであって」。この視点の源泉は、旅そのものにあるという。「日本はやっぱり、昨日の連続で明日やってるから、そういうイノベーションが起きないんで」——過去の延長で明日を作るのではなく、行ったことのない場所に身を置くことこそが、次の一手を生むと福田氏は説く。

収録を終えた出演者一同
収録を終えて(MUSIC BIRDスタジオにて)

聴きどころ ⑤「出版ほど知財を持っている業種はない」——本とラジオ、二つの未来

この回の白眉は、この問いだった。「もし福田さんが出版社の社長になったら、どう経営しますか」。

福田氏の答えは、パブリックドメインとなった名作の話から始まる。芥川龍之介や三島由紀夫の作品は、もう自由に使える。設定だけを現代に合わせてAIプロンプトが得意な若い世代に書き直させ、Kindleでどんどん出す。原作権さえあればコミック化もAIで加速できる。多言語展開も難しくない。

「AIができたら言語の壁は完全に乗り越えられるんで、出版ほど知財持ってる会社ってないんで」

そのうえで、既存の出版社に必要なのは大胆なリセットだと言い切る。「昨日まで言ったこと全部忘れてくれと言ってもらって、全くゼロから新しくやろうぜと」。ジャンルごとに担当を決め、一年で一万冊の企画を通す——大きな数字を投げることで、思考の速度そのものを変える提案だ。

そしてこの構造は、そのまま番組自身にも跳ね返ってくる。「ラジオの未来はポッドキャストですよね」。radikoの仕組みへの疑問、権利処理を理由に動かない業界の慣習への率直な違和感を語りながら、福田氏はこう続けた。

「ラジオ局のノウハウがあれば、(人気ポッドキャストを)超える番組は作れる。それを活かしてポッドキャスト放送局になってください。ラジオはおまけでどっちでもいいと」

出版もラジオも、資産(知財・ノウハウ・スタジオ・キャスティング力)はすでに手元にある。足りないのは、それを活かす覚悟と速度だけだ——「できるできると、できるよというのを結構本で書いたんですけど」。自分にできると信じ切れるかどうか、その一点が最後の分かれ目だという。理屈では分かっていても動けない、その"心の壁"こそが、本書全体を貫くもうひとつのテーマなのかもしれない。

越境がもたらしたもの

編集を担当していない読み手だからこそ、福田氏の本質を利害から自由に引き出せた。38億円の失敗を笑い飛ばす胆力、「写し鏡」という組織論、サウジと旅の視点、そして出版・ラジオという業界そのものへの遠慮ない提言——担当編集なら聞きづらいことも、越境の読み手だからまっすぐ問える。そしてこの回に限っては、版元の編集長本人が「禁じ手」を自覚しながら居合わせるという偶然までもが、番組のルールの健全さを裏づけるように働いた。

福田淳氏という人物を、これほど立体的に浮かび上がらせた55分。放送を聴けば、なぜこの人が20を超える事業のすべてを黒字化できたのか、その答えが腑に落ちるはずだ。

ゲスト著者プロフィール

福田 淳 氏(ふくだ あつし)

連続起業家。株式会社スピーディ 代表取締役CEO。1965年、大阪生まれ。祖父の代から続くメディア一家に育ち、若い頃から「人を楽しませる仕事」のそばで生きてきた。ソニー・ピクチャーズを経て、ソニー・デジタルエンタテインメントを創業。独立後は自らの会社スピーディを立ち上げ、タレントエージェント事業をはじめ、ロサンゼルスでのアートギャラリー運営、カリフォルニアや沖縄でのリゾート開発、無農薬ファーム経営、海外でのデジタルコンテンツ事業、スタートアップ投資まで、20を超える事業を世界各地で立ち上げてきた。数々の赤字事業を黒字へと立て直してきた手腕で知られ、2016年にはカルティエの「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。雑誌『GOETHE』での連載をはじめ、著書も多数。

『結局、熱狂できる人がうまくいく。』書影

『結局、熱狂できる人がうまくいく。 タブーを恐れず成果に導く60の金言』(PHP研究所/2026年5月29日発売)

20を超える事業を世界各地で立ち上げ、そのすべてを黒字化してきた連続起業家が、40年のキャリアの末にたどり着いた仕事論。帯には「火中の栗は迷わず拾え」。世間が避ける仕事にこそ価値がある——夢中になれることを見つけ、行動する力を説いた60の金言。

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ON AIR放送情報

  • 放送日時:2026年9月12日(土)23:00〜23:55
  • 放送:全国110局のコミュニティFMで放送
  • ♪ 私を作った一曲:レイヤマダ「きみはだれかのヒーロー」(福田 淳 氏 選曲)

ABOUT@本が読みたくなる、ラジオ

「@本が読みたくなる、ラジオ」は、自分が編集していない、他社の著者の本を、現役編集長が読み解くという決めごとを持つ対談ラジオ番組です。担当編集という利害から自由な読み手だからこそ、著者の本質にまっすぐ切り込む。ナビゲーターのあつみゆりかとともに、全国110局のコミュニティFMで放送中。

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文責:編集部 Toshi Kinoshita