ON AIR REPORT 放送レポート 特別編・EP0
EP00 2026年7月4日(土)23:00〜23:55 本レポート

自社の本は、紹介しない。
——3人のスター編集長が、互いの代表作を読み解き合った夜。

記念すべき番組の起点、エピソード0。この日だけは、ゲスト著者はいない。主役は、普段は黒子に徹する編集者たちそのものだ。PHP研究所・大隅 元、すばる舎・小寺 裕樹、飛鳥新社・矢島 和郎——出版社の垣根を越えて集まった3人の編集長が、それぞれの手がけた一冊を持ち寄り、互いに読み解き合う。「他社の本を、他社の編集長が読む」という番組の掟が、初回にして全開になった55分。

番組パーソナリティ3名とナビゲーター

なぜ、この番組は始まったのか

エピソード0は、ナビゲーターのあつみゆりかが3人の編集長を口説き落とした経緯そのものから始まる。番組の原点は、彼女自身の危機感にあった。全国的に書店の数は減り続け、ビジネス書をPRできる場も年々細っている——出版オタクを自認し、自らも著者となったあつみは、その現状をこう突きつける。ビジネス書を紹介してくれるテレビ・ラジオ番組は、あまりに少なくないか、と。

もっとビジネス書の面白さを伝える場をつくれないか。その想いから生まれた企画に、3人の編集長が賛同して集まった。あつみが一人ひとりに声をかけ、「なぜ引き受けてくれたのか」を本人たちに直接ぶつけるところから、番組は動き出す。

大隅は、本の存在が誰にも知られないまま書店から消えていく現実に触れ、ラジオという長い尺でこそ著者の魅力を深く伝えられる価値を語った。1時間弱という尺は、本を紹介するには贅沢すぎるほど。だからこそ有効に使いたい——業界全体がこのラジオを通じて盛り上がっていければいい、という気持ちで参画したという。

小寺のもとには、あつみから凄まじい熱量の長文メッセージが届いたところから始まった。飲みの場で一度会ったきりの、ほとんど接点のなかった相手からの誘い。それでも即答だったのは、番組の設計に惹かれたからだ。

矢島は「頼まれたことは断らない」を信条に挙げつつ、別件でやり取りしていた縁もあって話を聞き、その内容に本気で心を動かされたと明かした。

この番組の“掟破り”——自社の本を紹介しない

この番組の核を、小寺が一言で射抜いた。出版業界を元気にしたいという掛け声はよく聞く。だが実際にできることは型にはまりがちで、たいていは自社書籍のPRに凝り固まってしまう。この番組はそこを真逆に振り切った。

各パーソナリティが自社の本を紹介しない。他社の本を紹介する。

自社本のPRになれば、どうしても宣伝臭くなる。だが他社の編集長がどう本を作っているのか、その深いところまで聞ける機会は、普段ほとんどない。それをラジオという場でやれる——小寺にとって、受けるのは一択だった。この「相互越境」の設計こそ、エピソード0を貫く背骨になる。

大隅 元を読み解く——あつみゆりか氏『1冊まるごと「完コピ」読書術』

最初の主役は、五十音順で大隅 元。小寺と矢島による“他己紹介”が、この編集長の輪郭を描き出す。

小寺は大隅を、時代の先端を行く起業家やインフルエンサーの本を作ったかと思えば、囲碁も映画も仏教も手がける、あらゆる分野を優れたコンテンツに仕上げる稀有な編集者だと評した。呼び名は「出版業界のナイスガイ」。ラジオの誘いに躊躇なく応じた小寺が、たった一つだけ迷ったのは「大隅さんが喋りうますぎて、食われるんじゃないか」という点だったという。

矢島は、著者のパーティーで壁の花になりがちな自分が、大隅がいるとホッとして話し込んでしまう——そんな距離の近さと、最先端を切り取って読者に届ける企画力を挙げた。

大隅自身は、自分の得意・不得意を脇に置き、何も知らない読者の視点で「何が面白いか」を探すのだと語る。

自分の得意とか不得意とか考えずに、何も知らない読者の視点で見た時に、何が面白いか。

囲碁の本を、囲碁未経験のまま手がけたのもそこに理由がある。囲碁は相手を打ち負かす競技ではなく、相手と対局という空間を共につくるコミュニケーションだ——著者からそう教わったとき、それが普段の著者と編集者の関係に似ていると感じ、深く知りたくなった。情報の仕入れ先を問われると、本はあまり読まず、人と頻繁に会うわけでもなく、むしろ「入ってくる」感覚を意識していると答える。

本は実はあんまり読まない。もうちょっとスピリチュアルな感覚ですけど、入ってくるものを意識してる。

紹介やSNSでの偶然の出会いを大切にする、その感度が企画の源泉だった。

そんな大隅が読み解きの一冊に選んだのは、なんと隣に座るあつみゆりか氏の初著書『1冊まるごと「完コピ」読書術』。著者を目の前にして語るという、この番組ならではの特殊なシチュエーションが、いきなり実現してしまった。

この本が説くのは、速読でも多読でも要約読書でもない。たった1冊を「師匠本」と定め、その内容を完全にコピーしきるまでやり抜く読書術だ。書店の読書術コーナーは長らくアップデートされていない——大隅がかねて抱いていた問題意識と、あつみの発想が噛み合って生まれた。

小寺は、これは読書術というより「人生変容の本」だと読む。上手に本を読むためではなく、「今度こそ変わりたい」人に刺さる作りが秀逸だと。

矢島が唸ったのは、一度読むだけでは身につかないという指摘を、「奥義」と「必殺技」といった言葉で描いてみせるワードチョイスだった。

あつみは『週刊少年ジャンプ』で育ち「人生はジャンプ」と捉えている、と応じる。個性がそのまま技術になっていた。制作の舞台裏も明かされる。あつみは初の著書だったこともあり、担当の大隅とZoomで一章ごとに打ち合わせを重ね、その録画を15回繰り返し見ながら書いた——編集者を「完コピ」しながら書き上げたのだという逸話に、スタジオがどよめいた。

Zoomを録画して、15回リピートしながら、、、大隅さんを完コピするやり方で書いてました。

『1冊まるごと「完コピ」読書術』書影
収録中の編集長3名とナビゲーター
スタジオでの収録風景

小寺 裕樹を読み解く——山本 渉 氏『任せるコツ』

続く主役は小寺 裕樹。矢島と大隅が、この編集者を語る。

矢島は、今回の縁まで話したことがなかったにもかかわらず、打ち合わせを重ねるうち「頼りになる男だ、ついていけば間違いない」と感じたと語る。日本全国どこでも役に立つ本を作るのが上手い、と。

大隅にとって小寺は旧知の間柄で、「冷静と情熱のバランスが素晴らしい」編集者。見た目は陽キャそのものなのに、作る本も書く文章も、誰からも嫌われない思いやりに満ちている。かつて出たがりではなかった大隅を、パーティーで見つけては「何か面白いことやろうぜ」と引っぱり出し、オンラインサロンを一緒に立ち上げた——「編集者が自分を出していいんだ」と思わせてくれた恩人だと、大隅は明かした。

小寺が著者と向き合う姿勢を問われて返した言葉が、この回の白眉のひとつになる。

一冊一冊が青春だと思ってる。

部活を共にした3年間の友人が一生の友になるように、一冊を共にするにはそれくらいの熱量と覚悟がいる。だから年に何十冊も量産はできない、と。著者は本を出すまでの長い期間、この方向で合っているのか不安を抱え続ける。孤独な著者に、なるべく全部応えてあげたい——その一貫した姿勢が、数々のヒットの土台にあった。

自分ができないなって思うものは、なるべく作らない。絶対に試したい、っていうのはある。

小寺が選んだのは、山本 渉 氏『任せるコツ』。15万部を超え、2024年の年間ビジネス書ランキングでも上位に入ったベストセラーだ。副題は「自分も相手もラクになる正しい"丸投げ"」。著者は国内最大手のマーケティング会社で、小さな案件から100億円超の大型案件まで年間100近くをメンバーに任せてきた人物。丸投げのネガティブな響きを反転させ、任せる側も任される側も成果を出してハッピーになる「正しい丸投げ」を説く。

読み手に回った大隅は、シンプルなタイトルの見た目とは裏腹の中身のギャップに驚いたという。部下を成長させたい「上司目線」ではなく、部下に感謝されるには何をすべきかという「部下目線=顧客目線」で書かれている点に、マーケターとしての凄みを見た。各項目に学術的エビデンスが散りばめられ、冒頭の「学生キャバクラ理論」——同じ事実でも情報の順番次第で受け取られ方が大きく変わるという話——に、早くも引き込まれたと語る。

矢島は「マクドナルド理論」を挙げ、思わず人に自慢したくなる小ネタの豊富さを楽しんだ。そして矢島が本当に救われたのは、最終盤の一節だった。

存在さえ忘れられるくらいでちょうどいい。空気のようなリーダーがいい。

編集長として、言いすぎか言わなすぎか、その塩梅にずっと悩んでいた矢島は、この一行を「お守りにしてやっていけそうです」と受け取った。小寺はこれに応え、制作時のタイトル案に「本当のリーダーは空気になる」があり、自分はそれで行きたかったほどだと明かす。同じ本から、編集長たちが揃って核心の一行を抜き出してくる——読み手の目線が交差する、この番組ならではの瞬間だった。

『任せるコツ』書影

矢島 和郎を読み解く——武田 友紀 氏『「繊細さん」の本』

3人目の主役は、飛鳥新社の矢島 和郎。小寺と大隅が読み解く。

小寺は矢島を、『おやすみ、ロジャー』も『「繊細さん」の本』も手がけ、出版史に刻まれるメガヒットを生んできた生きるレジェンドだと紹介する。市場そのものを作り出せる稀有な存在で、「僕には見えないものが見えているのでは」と感じることがある、と。

大隅が挙げたのは、その人間性とマネジメントだ。矢島の部下に印象を聞くと「怒られたことがない」「感情の起伏がない」と返ってくる。これだけの実績を出しながらおごらず、自分の企画にすら「自信ないんだけどどうかな」と謙虚でいられる——その感情コントロールを、大隅は見習いたいと語った。

矢島はその背景を、亡くなった創業社長の方針に重ねる。「何が売れるかわからない」からこそ、自分にわからない企画も全部通してくれた。編集者に見えているかもしれないから、と。だから自分も企画を否定しない。飛鳥新社から驚くようなベストセラーが次々生まれるのは、この心理的安全性ゆえだと小寺は見る。

何が売れるかわからない、と。だから自分がわからないものは、全部通してくれた。

棚——書店のジャンル分け——を企画会議で意識的に口にしない、ジャンルを横断するものこそ強い、という矢島の本作りも、その延長にあった。企画書で見るのは、ターゲットよりも「編集者の目が本気で決まっているか」。

編集者の眼がキマっているか。

先輩から受け継いだ「やりたいならやってみなはれ」の精神が、そこに生きている。

矢島が選んだのは、その代表作『「繊細さん」の本』。HSP(とても敏感な人)という概念を「繊細さん」という優しい言葉に置き換え、60万部に達したベストセラーだ。2017年頃にSNSでHSPがバズった際、医師の本はあってもカウンセラーの本がまだなかったことに気づき、企画が動いた。「繊細さん」という言葉は矢島の発明ではなく、著者の武田 友紀 氏が別の先生から言われて大切にしていた表現だという裏話も語られた。

小寺は、多くの人が抱えていた違和感に名前をつけて一気に広めた、市場を作った本だと評価する。「メンヘラ」のような自己否定に傾くラベルではなく、「私って繊細さんなんだ」という自己理解に着地させるラベリングの優しさに、新たな世界観を見た。

大隅の読みは編集者らしい。心理・心理学の棚に入る本でありながら、作りは完全にビジネス書だと言う。「気がつきすぎて疲れるが驚くほどなくなる」という効果効能を打ち出したことで、ビジネスパーソンも手に取った。

矢島は、著者の武田氏が「〜してしまう」といった自責を誘う表現やビックリマークを避けるなど、繊細さんの視点を随所に宿していたと明かす。

イラストの入れ方やHSP診断も含め、ソフトに受け取れる作りが、この本を遠くまで届けた。

『「繊細さん」の本』書影
収録を終えた出演者一同
打ち合わせにて

3人が交わって生まれたもの

エンディングで、それぞれが今日の手応えを口にした。小寺は、大隅と矢島に褒めてもらえた読み解きのコーナーが一番嬉しく、今日はぐっすり眠れそうだと笑う。矢島は、ヘッドホンをつけてマイクで喋る夢のような時間があっという間だったと振り返った。大隅の感想は、この番組の狙いをそのまま言い当てていた。それぞれの代表作の秘話やこだわりを聞いた上でもう一度その本を読むと、まったく違う手触りになる——また読み直したくなる、と。

リスナーへのメッセージも、三者三様だった。小寺は、本や出版に関わる人はもちろん、コンテンツ作りに携わるすべての人に刺さる番組にしたいと語る。矢島は、本というと小説を思い浮かべる人へ「ビジネス書は面白いから読んでほしい」と呼びかけ、次回からのゲスト回は今日と構成が違うので、今日ピンと来なかった人もぜひもう一度、と付け加えた。大隅は、自分たちはあくまで編集者の「代表」だと言う。世にはもっとすごい編集者がいる——だからこの番組を入口に、編集者という仕事の面白さ、そこで働く人たちの姿にも目を向けてもらえたら、業界全体にとっていい活動になる、と。

他社の著者を、他社の編集長が読み解く——その掛け合わせは、エピソード0では「編集長どうしが互いの代表作を読み解き合う」という相互越境になった。普段は黒子の編集者たちが主役化され、同じ本から核心の一行を抜き出し合う。番組が何を起こしうるのか、その予感を初回にして残した55分だった。

パーソナリティ/ナビゲーター プロフィール

大隅 元

大隅 元|PHP研究所 編集長

2008年、PHP研究所に入社。人材開発部門での法人営業や、月刊誌『Voice』編集部を経て、現在はビジネス書とPHPビジネス新書の編集長を務める。短い労働時間でより高い成果を求められる現代のビジネスパーソンに「正しい頑張り方」を指南する【「これ」しかやらないシリーズ】を、累計発行部数50万部を突破するまでに成長させた(2026年4月末時点)。中田敦彦著『労働2.0』、荻原博子著『年金だけでも暮らせます』、馬渕磨理子著『収入10倍アップ高速勉強法』、伊藤弘了著『仕事と人生に効く教養としての映画』、上岡正明著『年収1億円になる人は、「これ」しかやらない』、針貝有佳著『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』、徳谷智史著『経営中毒』、嶋村吉洋著『となりの億万長者が17時になったらやっていること』などヒット作多数。

小寺 裕樹

小寺 裕樹|すばる舎 編集長

大学卒業後、IT企業勤務などを経て、フォレスト出版株式会社へ。出版業界のスタートは営業マンとして、書店営業やビジネス書の販促などに従事。2014年、当時創業2年目の株式会社きずな出版にジョイン。昭和の時代に松本清張や三島由紀夫の担当編集でもあった、きずな出版代表の櫻井秀勲氏から厳しい指導を受け、編集者として成長。『やってはいけない勉強法』シリーズや『20代を無難に生きるな』シリーズなどヒット作に恵まれる。2018年からは「小寺メディア戦略室」というオンラインサロンを運営し、DMMオンラインサロンアワード2019にて表彰される。2021年、株式会社すばる舎に移籍。『任せるコツ』『いつも幸せな人は、2時間の使い方の天才』など、ビジネス書を中心に編集している。

矢島 和郎

矢島 和郎|飛鳥新社 常務取締役 編集長

1975年生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。出版社2社を経て、2011年より飛鳥新社に入社。翻訳書、ビジネス書を中心に幅広いジャンルの本を編集。担当した『おやすみ、ロジャー』(カール=ヨハン・エリーン著)はミリオンセラーに。HSP(とても敏感な人)をテーマにした『「繊細さん」の本』(武田友紀著)は60万部を突破。『ぼく モグラ キツネ 馬』(チャーリー・マッケジー著、川村元気訳)はイギリスで「ハリーポッターシリーズに次いで史上2位の売り上げ」という歴史的ベストセラー。日本でも25万部のベストセラーとなっている。

あつみゆりか

あつみゆりか|総合ナビゲーター/大人の学びプロデューサー・SoZo株式会社 代表取締役

1976年、米国ボストン生まれ。3児の母。人の学びを科学するSoZo(ソウゾウ)株式会社 代表取締役 / マイナビウエディング元編集長。3年の専業主婦期間を経て、復職したときにはビジネスパーソン劣等生。もがき苦しんだ末に1冊だけをやり抜く「完コピ読書術」を考案し、以後、人生が変わり始める。現在は社会人の学びを提供する事業を複数展開し、3万人以上の社会人に学びを提供している。初著書『今度こそなりたい自分になる! 1冊まるごと「完コピ」読書術』は4刷1.7万部突破。

ON AIR放送情報

  • 放送日時:2026年7月4日(土)23:00〜23:55
  • 放送:全国110局のコミュニティFMで放送

「@本が読みたくなる、ラジオ」は、本を書いた著者をゲストに迎え、その本を編集していない現役編集長が読み解く対談番組です。書店では会えない著者に、ラジオで会いに行く。エピソード0は、その番組を届ける3人の編集長とナビゲーターが、互いの代表作を読み解き合った特別編です。

文責:編集部 Toshi Kinoshita