EVENT REPORT イベントレポート
TALK SHOW 2026年10月2日(金)TSUTAYA BOOKSTORE川崎駅前店 SHARE LOUNGE

ライバル3社の編集長が、書店に揃った夜。

――「@本が読みたくなる、ラジオ」初のトークショー、TSUTAYA BOOKSTORE川崎駅前店で開催

10月2日(金)夜、TSUTAYA BOOKSTORE川崎駅前店のSHARE LOUNGE。「@本が読みたくなる、ラジオ」初のリアルイベントに、4人が揃った。PHP研究所の大隅元、すばる舎の小寺裕樹、飛鳥新社の矢島和郎。そして総合ナビゲーターのあつみゆりか。毎週土曜の夜、電波の向こうにしかいない4人が、そろって人前に立つのは初めてだ。

マイクを持って並んで座る、あつみゆりか、大隅元、小寺裕樹、矢島和郎
電波の向こうの4人が、初めて揃った。左から、あつみゆりか、大隅元、小寺裕樹、矢島和郎。

40席は満席。客席には、リスナー、番組に出演した著者、そして本を出したい人たちが並んだ。乾杯の発声は、もちろん「本が読みたくなる、ラジオ!」。

テーブル席の参加者の前で話す登壇者たち。背後に書棚が並ぶSHARE LOUNGEの会場全景
40席が埋まったSHARE LOUNGE。

「そんなの、できるわけないやろ」

幕開けは自己紹介ではなく、「他己紹介」。自分を語ると、人は謙遜する。ならば隣の編集長に語らせればいい。あつみの発案だ。

大隅は小寺を「誰も傷つけない言葉を選ぶ編集者」と紹介した。チャットでも敬語を崩さず、誤植は見逃さない。その繊細さが、女性にも読まれる本を生む。

矢島は大隅を「いたずらっ子」と評した。人懐っこい。だが企画は常識の外から持ってくる。「たまに狂気を感じる」。会場が沸いた。矢島が挙げた大隅の代表作は、あつみの『1冊まるごと「完コピ」読書術』だった。

矢島が番組で「ゴッド」と呼ばれる理由は、小寺が明かした。『おやすみ、ロジャー』でミリオン、『「繊細さん」の本』で60万部。現役にして、レジェンドである。その矢島が第1回収録で残した名言がある。企画を持ち込まれたとき、どこを見るのか。

「編集者の目の決まり具合を見てます」

ライバル3社の編集長が、他社の著者に話を聞く。出版業界の常識では、まず成立しない企画だ。番組プロデューサーが知人の出版関係者に相談すると、返ってきたのは「そんなの、できるわけないやろ」。だが、あつみが思いの丈をメールに綴ると、3人は即答で引き受けた。

あつみの狙いは明快だ。映画を監督で選ぶように、ビジネス書を編集者で選ぶ世界をつくる。そして、人を書店へ動かす。この夜の会場が書店だったこと自体が、その答えのひとつだった。

パーソナリティは、本当に聴いているのか

空気を変えたのは大隅だ。誰にも中身を明かさず用意したシークレット企画、「第1回 本ラジクイズ大会」。パーソナリティが本当に放送を聴いているのか、フリップで試す。予定調和を嫌う大隅らしい仕掛けである。

  • 第1問 EP04(8/1)、精神科医さわ先生が選んだ1曲は風味堂「泣き虫の歌」。勧めたのは誰か。→ 大学のテニスサークルの同級生の男友達
  • 第2問 EP08(8/29)、伊藤規絵の回。朗読コーナー「美和子と翔太の今日の一冊」の後、小寺の一言は。→「翔太くん、遅くまで仕事しすぎじゃないですか」
  • 第3問 EP05(8/8)、吉田幸弘『すごい継続力』のタイプ診断。あつみは何タイプか。→ スタートダッシュは強いが、途中で息切れする「チータータイプ」
  • 第4問 EP02(7/18)で矢島が紹介した、西寺郷太のもう1冊は。

第4問は「ゴッドしか答えられない」はずの難問。ところが当の矢島が答えに詰まり、会場は爆笑。優勝はあつみ。ゴッドの正解は、1問だった。

シークレット問題は「冒頭トーク『出版業界のいま』の最長記録は誰か」。答えは出題者の大隅自身だ。EP07、たかもりくみこの回で夏休みの旅行話が止まらず、5分15秒。最後は「書店は涼しいから行きましょう」で強引に締めたという。

あつみからは収録の裏側も。朗読は毎週ほぼぶっつけ本番。噛む日は噛み倒す。放送で聴こえるのは「綺麗になった声」だ。

ビールを手に向かい合って座り、トークをするあつみゆりかと3人の編集長。奥に客席が見える
MCは持ち回り。ビール片手のトークが続いた。

編集長が明かす、本づくりの裏側

MCは矢島に替わる。各自が自社の本を持ち寄り、その誕生を語り合うパートだ。

『なんにもしない。』(マツダミヒロ/すばる舎)

始まりは、カフェでの雑談だった。朝起きたら、まずスマホ。心はいつもざわついている。その時代へのカウンターとして、「余白」の本をつくる。企画会議を通った仮タイトルは「自分に余白を作る」。これでは売れない。考え抜いた末に、「なんにもしない」が降ってきた。

矢島が唸ったのは造本だ。本文の半分が余白の本で、18〜19ページだけが余白ゼロ。文字がびっしり詰まっている。小寺の仕掛けで、狙いは読書体験の驚き。「SNSでバズらないかな、という下心も」と小寺は笑う。

『リーダーをつくる123の言葉』(小椋浩一/PHP研究所)

下敷きは、佐藤一斎の『言志四録』。西郷隆盛が西南戦争の最後まで携えていたとも言われる名著だ。だが大隅は「恥ずかしながら、読んでいなかった」と明かす。既存の解説書は敷居が高い。そこに現れたのが、挫折の淵で『言志四録』に救われ、いまも仕事の現場で使い続ける小椋だった。この人の実体験を通せば、自分も読める。それが企画の出発点だ。帯にも背にも刷り込んだコピーは「静かに燃えろ」。ほかの編集長から「攻めてる」と声が上がった。

『法医学教授が教えている 死体の授業』(飛鳥新社)

矢島が持ち込んだのは、自身の担当外ながら社内で売れている一冊。きっかけは、死体の話を驚くほど面白く語る法医学者のWeb記事だった。著者は仕事を心底愛し、「解剖医を目指す人を増やしたい」という使命を持つ。伝えたいことが先にあり、本は手段。そういう著者は強い、と矢島は言う。

企画を出した編集者の目は決まっていたか。あつみの問いに、矢島は「そんな感じでしたね」。仮タイトルは「教養としての死体」。部数は、すでに3万2000部だ。

本を出したい人へ、編集長の答え

客席には、すでに本を出した人も、これから出したい人もいた。小寺が問う。「出版が夢という人は、どう動けばいいか」。

大隅の答えは「接点を増やすこと」。編集者は毎日、多くの人に会う。覚えてもらうには、会いに行くしかない。小寺が挙げた実例は、会場にいた安江一勢だ。小寺が手がけた本の読者で、ある本を38回読んだ男。接点を大切にし続けて著者になり、いまや結婚式の乾杯の挨拶をする間柄だという。

矢島は、もっと端的だった。

「何か狂った熱量を、何かに注いでほしい。トゥーマッチなものを薄めて世に出すのが、編集者の役割です」

質疑でも、本を出したい人の質問が続いた。

「書きたいものと読まれるものの差を、どう埋めるか」。小寺は「人は自分の企画に甘くなる。だから壁打ちしかない」と返した。厳しいフィードバックを恐れるな。理想は編集者、難しければ企画のセンスがある人に。

「2冊目は出せるのか」と問うたのは、翌10月3日放送のEP13に出演した小河園子。大隅の答えはこうだ。1冊目の頃から何が変わったのかを言語化せよ。それも気持ちではなく、実績や数字で。そこに、編集者は企画を見つける。

新ジャンルの本を、企画書と実物持参で売り込む参加者まで現れた。続きは懇親会へ持ち越しとなった。

3人の答えは、言葉こそ違えど同じ方向を向いていた。大隅は「接点を増やせ」、矢島は「狂った熱量を注げ」、小寺は「壁打ちしかない」。どれも文章力の話ではない。編集者が見ているのは、書く前の行動と熱量だ。冒頭の矢島の言葉、「目の決まり具合」は、企画を持ち込む編集者だけでなく、本を書こうとする著者にも問われている。

夢は、全国100書店

最後のMCは小寺。テーマは番組の夢だ。

番組開始から約2か月。4人は日本記者クラブで、初の本格会議を開いた。議題は「何が達成できたら成功か」。出た答えを、大隅が説明する。

ゴールは、番組で取り上げた本がリスナーの手元に届くこと。そのための中間目標が、「本ラジのコーナーがある書店の数」だ。

第1号は、この夜の会場。担当の岡田が番組に共感し、自らコーナーを作った。京都の大垣書店でもフェアが実現し、現在3店舗。目標は100店舗。当日「THE END」Tシャツ姿の岡田には、「終わらせないですよ」と声が飛んだ。

「本ラジ」コーナーの棚の前に立つ、矢島和郎、小寺裕樹、大隅元、あつみゆりか
全国第1号の「本ラジ」コーナーの前で。

あつみは「出版業界にラブになってしまった」と言う。書店が減り、読書離れが叫ばれる今だからこそ、関わる余地がある。だから会場に呼びかけた。番組の「夢の応援団」になってほしい、と。リスナーの熱は、書店に伝わる。

大隅は、ラジオプロデューサー・石井玄の言葉を引いた。オードリーや星野源の「オールナイトニッポン」を手がけ、大隅らが著書を世に出した人物だ。「面白いから聴いて」では、番組は広まらない。広まるのは、自分が関わっているから勧めたくなるときだ。関わる人を増やせ。その印として、大隅はこの夜のために非公式ステッカーまで刷っていた。

この夜の「推しの一冊」

締めくくりは、編集長による「他社の推しの一冊」。自社本は選ばない。番組と同じルールだ。

紹介者推しの一冊ひとこと
矢島和郎『アイデアのつくり方』ジェームス W.ヤング(CCCメディアハウス)新しいものはない。すべては掛け合わせだ
小寺裕樹『思うことから、すべては始まる』植木宣隆(サンマーク出版)ミリオンを量産した元社長の、企画の極意
大隅元『古代ギリシャのリアル』藤村シシン(実業之日本社)偉大なギリシャ人の、意外な不完全さ

会場には、こんな本も並んだ。

紹介本は、すべて会場で販売された。

客席の手前の机に並べられた、この夜の紹介本。奥で登壇者が話している
客席の手前には、この夜の紹介本が並んだ。

書店とラジオが、つながった夜

ラジオの向こうの4人に、書店で会う。番組が掲げる「ラジオと書店がつながる場」を、ひと足早く形にした一夜だった。

もっとも、コーナーのある書店はまだ3店舗。100店舗の夢は遠い。だからこそ、この夜の客席が最初の応援団になる。

客席の参加者と登壇者がカメラに向かって笑顔で集まった集合写真
最後は全員で。掛け声は、もちろん「本が読みたくなる、ラジオ!」。

(文中敬称略)

  • 番組を聴く:毎週土曜23:00〜23:55、全国110局のコミュニティFMで放送中。アーカイブはSpotifyで。
  • 感想を届ける:ハッシュタグ「#本ラジ」で。
  • 書店の皆さまへ:店頭POPを無料配布中(書店様向けPOPページ)。
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ABOUT@本が読みたくなる、ラジオ

「@本が読みたくなる、ラジオ」は、自分が編集していない、他社の著者の本を、現役編集長が読み解くという決めごとを持つ対談ラジオ番組です。担当編集という利害から自由な読み手だからこそ、著者の本質にまっすぐ切り込む。ナビゲーターのあつみゆりかとともに、全国110局のコミュニティFMで放送中。

番組公式サイト ↗

取材・構成:Toshi Kinoshita