ライバル3社の編集長が、書店に揃った夜。
――「@本が読みたくなる、ラジオ」初のトークショー、TSUTAYA BOOKSTORE川崎駅前店で開催
10月2日(金)夜、TSUTAYA BOOKSTORE川崎駅前店のSHARE LOUNGE。「@本が読みたくなる、ラジオ」初のリアルイベントに、4人が揃った。PHP研究所の大隅元、すばる舎の小寺裕樹、飛鳥新社の矢島和郎。そして総合ナビゲーターのあつみゆりか。毎週土曜の夜、電波の向こうにしかいない4人が、そろって人前に立つのは初めてだ。
40席は満席。客席には、リスナー、番組に出演した著者、そして本を出したい人たちが並んだ。乾杯の発声は、もちろん「本が読みたくなる、ラジオ!」。
「そんなの、できるわけないやろ」
幕開けは自己紹介ではなく、「他己紹介」。自分を語ると、人は謙遜する。ならば隣の編集長に語らせればいい。あつみの発案だ。
大隅は小寺を「誰も傷つけない言葉を選ぶ編集者」と紹介した。チャットでも敬語を崩さず、誤植は見逃さない。その繊細さが、女性にも読まれる本を生む。
矢島は大隅を「いたずらっ子」と評した。人懐っこい。だが企画は常識の外から持ってくる。「たまに狂気を感じる」。会場が沸いた。矢島が挙げた大隅の代表作は、あつみの『1冊まるごと「完コピ」読書術』だった。
矢島が番組で「ゴッド」と呼ばれる理由は、小寺が明かした。『おやすみ、ロジャー』でミリオン、『「繊細さん」の本』で60万部。現役にして、レジェンドである。その矢島が第1回収録で残した名言がある。企画を持ち込まれたとき、どこを見るのか。
「編集者の目の決まり具合を見てます」
ライバル3社の編集長が、他社の著者に話を聞く。出版業界の常識では、まず成立しない企画だ。番組プロデューサーが知人の出版関係者に相談すると、返ってきたのは「そんなの、できるわけないやろ」。だが、あつみが思いの丈をメールに綴ると、3人は即答で引き受けた。
あつみの狙いは明快だ。映画を監督で選ぶように、ビジネス書を編集者で選ぶ世界をつくる。そして、人を書店へ動かす。この夜の会場が書店だったこと自体が、その答えのひとつだった。
パーソナリティは、本当に聴いているのか
空気を変えたのは大隅だ。誰にも中身を明かさず用意したシークレット企画、「第1回 本ラジクイズ大会」。パーソナリティが本当に放送を聴いているのか、フリップで試す。予定調和を嫌う大隅らしい仕掛けである。
- 第1問 EP04(8/1)、精神科医さわ先生が選んだ1曲は風味堂「泣き虫の歌」。勧めたのは誰か。→ 大学のテニスサークルの同級生の男友達
- 第2問 EP08(8/29)、伊藤規絵の回。朗読コーナー「美和子と翔太の今日の一冊」の後、小寺の一言は。→「翔太くん、遅くまで仕事しすぎじゃないですか」
- 第3問 EP05(8/8)、吉田幸弘『すごい継続力』のタイプ診断。あつみは何タイプか。→ スタートダッシュは強いが、途中で息切れする「チータータイプ」
- 第4問 EP02(7/18)で矢島が紹介した、西寺郷太のもう1冊は。
第4問は「ゴッドしか答えられない」はずの難問。ところが当の矢島が答えに詰まり、会場は爆笑。優勝はあつみ。ゴッドの正解は、1問だった。
シークレット問題は「冒頭トーク『出版業界のいま』の最長記録は誰か」。答えは出題者の大隅自身だ。EP07、たかもりくみこの回で夏休みの旅行話が止まらず、5分15秒。最後は「書店は涼しいから行きましょう」で強引に締めたという。
あつみからは収録の裏側も。朗読は毎週ほぼぶっつけ本番。噛む日は噛み倒す。放送で聴こえるのは「綺麗になった声」だ。
編集長が明かす、本づくりの裏側
MCは矢島に替わる。各自が自社の本を持ち寄り、その誕生を語り合うパートだ。
『なんにもしない。』(マツダミヒロ/すばる舎)
始まりは、カフェでの雑談だった。朝起きたら、まずスマホ。心はいつもざわついている。その時代へのカウンターとして、「余白」の本をつくる。企画会議を通った仮タイトルは「自分に余白を作る」。これでは売れない。考え抜いた末に、「なんにもしない」が降ってきた。
矢島が唸ったのは造本だ。本文の半分が余白の本で、18〜19ページだけが余白ゼロ。文字がびっしり詰まっている。小寺の仕掛けで、狙いは読書体験の驚き。「SNSでバズらないかな、という下心も」と小寺は笑う。
『リーダーをつくる123の言葉』(小椋浩一/PHP研究所)
下敷きは、佐藤一斎の『言志四録』。西郷隆盛が西南戦争の最後まで携えていたとも言われる名著だ。だが大隅は「恥ずかしながら、読んでいなかった」と明かす。既存の解説書は敷居が高い。そこに現れたのが、挫折の淵で『言志四録』に救われ、いまも仕事の現場で使い続ける小椋だった。この人の実体験を通せば、自分も読める。それが企画の出発点だ。帯にも背にも刷り込んだコピーは「静かに燃えろ」。ほかの編集長から「攻めてる」と声が上がった。
『法医学教授が教えている 死体の授業』(飛鳥新社)
矢島が持ち込んだのは、自身の担当外ながら社内で売れている一冊。きっかけは、死体の話を驚くほど面白く語る法医学者のWeb記事だった。著者は仕事を心底愛し、「解剖医を目指す人を増やしたい」という使命を持つ。伝えたいことが先にあり、本は手段。そういう著者は強い、と矢島は言う。
企画を出した編集者の目は決まっていたか。あつみの問いに、矢島は「そんな感じでしたね」。仮タイトルは「教養としての死体」。部数は、すでに3万2000部だ。
本を出したい人へ、編集長の答え
客席には、すでに本を出した人も、これから出したい人もいた。小寺が問う。「出版が夢という人は、どう動けばいいか」。
大隅の答えは「接点を増やすこと」。編集者は毎日、多くの人に会う。覚えてもらうには、会いに行くしかない。小寺が挙げた実例は、会場にいた安江一勢だ。小寺が手がけた本の読者で、ある本を38回読んだ男。接点を大切にし続けて著者になり、いまや結婚式の乾杯の挨拶をする間柄だという。
矢島は、もっと端的だった。
「何か狂った熱量を、何かに注いでほしい。トゥーマッチなものを薄めて世に出すのが、編集者の役割です」
質疑でも、本を出したい人の質問が続いた。
「書きたいものと読まれるものの差を、どう埋めるか」。小寺は「人は自分の企画に甘くなる。だから壁打ちしかない」と返した。厳しいフィードバックを恐れるな。理想は編集者、難しければ企画のセンスがある人に。
「2冊目は出せるのか」と問うたのは、翌10月3日放送のEP13に出演した小河園子。大隅の答えはこうだ。1冊目の頃から何が変わったのかを言語化せよ。それも気持ちではなく、実績や数字で。そこに、編集者は企画を見つける。
新ジャンルの本を、企画書と実物持参で売り込む参加者まで現れた。続きは懇親会へ持ち越しとなった。
3人の答えは、言葉こそ違えど同じ方向を向いていた。大隅は「接点を増やせ」、矢島は「狂った熱量を注げ」、小寺は「壁打ちしかない」。どれも文章力の話ではない。編集者が見ているのは、書く前の行動と熱量だ。冒頭の矢島の言葉、「目の決まり具合」は、企画を持ち込む編集者だけでなく、本を書こうとする著者にも問われている。
夢は、全国100書店
最後のMCは小寺。テーマは番組の夢だ。
番組開始から約2か月。4人は日本記者クラブで、初の本格会議を開いた。議題は「何が達成できたら成功か」。出た答えを、大隅が説明する。
ゴールは、番組で取り上げた本がリスナーの手元に届くこと。そのための中間目標が、「本ラジのコーナーがある書店の数」だ。
第1号は、この夜の会場。担当の岡田が番組に共感し、自らコーナーを作った。京都の大垣書店でもフェアが実現し、現在3店舗。目標は100店舗。当日「THE END」Tシャツ姿の岡田には、「終わらせないですよ」と声が飛んだ。
あつみは「出版業界にラブになってしまった」と言う。書店が減り、読書離れが叫ばれる今だからこそ、関わる余地がある。だから会場に呼びかけた。番組の「夢の応援団」になってほしい、と。リスナーの熱は、書店に伝わる。
大隅は、ラジオプロデューサー・石井玄の言葉を引いた。オードリーや星野源の「オールナイトニッポン」を手がけ、大隅らが著書を世に出した人物だ。「面白いから聴いて」では、番組は広まらない。広まるのは、自分が関わっているから勧めたくなるときだ。関わる人を増やせ。その印として、大隅はこの夜のために非公式ステッカーまで刷っていた。
この夜の「推しの一冊」
締めくくりは、編集長による「他社の推しの一冊」。自社本は選ばない。番組と同じルールだ。
| 紹介者 | 推しの一冊 | ひとこと |
|---|---|---|
| 矢島和郎 | 『アイデアのつくり方』ジェームス W.ヤング(CCCメディアハウス) | 新しいものはない。すべては掛け合わせだ |
| 小寺裕樹 | 『思うことから、すべては始まる』植木宣隆(サンマーク出版) | ミリオンを量産した元社長の、企画の極意 |
| 大隅元 | 『古代ギリシャのリアル』藤村シシン(実業之日本社) | 偉大なギリシャ人の、意外な不完全さ |
会場には、こんな本も並んだ。
- 『文体のひみつ』三宅香帆(サンクチュアリ出版)
- 『今度こそなりたい自分になる! 1冊まるごと「完コピ」読書術』あつみゆりか(PHP研究所)
- 『きみをわすれない ぼく モグラ キツネ 馬 そして嵐』チャーリー・マッケジー(飛鳥新社)
紹介本は、すべて会場で販売された。
書店とラジオが、つながった夜
ラジオの向こうの4人に、書店で会う。番組が掲げる「ラジオと書店がつながる場」を、ひと足早く形にした一夜だった。
もっとも、コーナーのある書店はまだ3店舗。100店舗の夢は遠い。だからこそ、この夜の客席が最初の応援団になる。
(文中敬称略)
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取材・構成:Toshi Kinoshita